【短編小説】ブライダルベールを貴女に
「僕の……恋人に、なってくれませんか?」 廃ビルの屋上に、まだ少し湿っぽい初夏の風が2人の間を通り抜けた。 告白をされた長い金髪の少女は、後ろを振り向き少年をじっと見る。 「それに答える前に、一つ聞きたいことがあります」 「はい」 「今この状況で、どうしてそんな台詞が出てくるのですか?」 少女は、少年にじとっとした視線を向けながら言った。 「そもそもの話ですが、私とあなたは初対面。お互いの名前すらも知らないんですよ?」 「あっ、僕の名前は悠って言います」 「告白をした後に名乗るなんて、どこの時代ですか……まあ、それは良いとします。私が聞きたいのは、なぜ今ここで?という事です」 「えっ……と、それは……」 悠は目を逸らし、言い淀む。 「私を止めたいから、……ですかね」 少女が無表情で言うと、悠の肩が驚いたように少し動く。 「わかりやすい動機ですね。あなたが本当に私を止めたいのか、はたまた見過ごしたら罪悪感に襲われるからという自己満足的な理由で、一応止めようとしたのか。世の中には、後者が圧倒的に多いようですけど、あなたはどちらなんでしょうか」 その声は決して感情的ではないが、どこか諦めたような声音だ。 「ちょうど、ここの前を通ったら……フェンスを乗り越えて、ふちに立ちながらも涙を流しているあなたが見えたんです。その姿が、どうしても放っておけなくて……あの、とりあえずフェンスのそっち側から戻ってきてくれませんか?」 「何のため、誰のために?」 「僕が安心して話したいからです。まあつまり、僕のためということですね。良かったら来てくれると助かります」 「………正直なんですね。わかりました、その告白を受けましょう」 「……へ?」 少女は呆けている悠を気にせず、身軽な動きでフェンスを飛び越え近づく。 「私の名前は夜月怜奈。……本当は、まだ迷っていたんです。私に生きる意味を見出させてください」 「えっ、僕で、いいんですか?」 「……何回も言わせないでくださいよ」 怜奈は少し拗ねたように視線を斜め下に持っていく。 頬が火照っているように見えるのは、眩しい夕陽のせいだろうか。 2人は未来への希望と不安を抱きながらも、その廃ビルを後にした。 私は学校でいじめられていた。 主犯格の人間は、確か東條と言ったか。 最初は、クラスメイトも少し止めようとしたが、東條さんの 「それ以上口出すようなら、あんたを標的にしてもいいんだからね」 という発言があってからは、誰もが見て見ぬふり。 教師ですらも、東條さんの後ろ盾―――東條財閥が原因で何もしてくれなかった。 まあ、仕方のないことだ。誰だって自分が一番可愛いから。 『こんな生きづらい世の中なんて、すべて壊れてしまえばいいのに』 そんな事を言う黒い影に誘導されるまま、気づいたら廃ビルの屋上にいた。 でも、まだ……生きられる? 私を必要としてくれる人がいるならば。 数年後。 蝉の声が響く中、楽しそうな男女の話し声が聞こえる。 2人は、街中にそびえるマンションを見て、ふと足を止めた。 「あのビル、取り壊されちゃったんだね」 「まあ、ボロボロでセキュリティも何もない所だったし、しょうがないのかな……ここら辺、最近都市化が進んでるよね」 「そうだね……ねえ、せっかくならさ。ここにしない?」 怜奈は悪戯っ子のような笑みで、悠に提案する。 「“ここ”……?って、もしかして」 「そう、近くに駅ができるらしいしお互いの大学も近いし……ついでに予算内だし、優良物件だと思うんだけどな」 「怜奈……ありがとう!」 そう言って悠は怜奈に飛びついた。 暑いんだからやめてよー、と冗談を言って笑いながら、木漏れ日のかかる道を歩いていく。 その後ろ姿を見送ったあの黒い影は、陽炎に溶けるように消えていった。
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よかったです!
読みやすかったです! 彼氏がほしい....w