『林檎の木の下にあるベンチ』
私は高校からの帰宅中に、晴れている日は必ずといっていいほどこの公園に来て、林檎の木の下にあるベンチに座っている。遊んでいる小学生をぼーっと眺めたり、参考書や小説を読んだりしているんだ。 ここに来ている理由は、この公園が好きなのもあるけれど、一番の理由はあんまり家にいたくないから。私の家は二世帯で住んでいて、おまけに一人だけだけど妹もいるんだ。人と接するのが苦手な私にとって家にいるのは苦痛で、ここで家にいる時間を減らす為に時間稼ぎをしている。 参考書を読む手を止めて、顔を上げる。今日は中学生の女の子達がバドミントンをしていた。バドミントン部に入っているからか、手慣れている様子だ。 すると、その中に中学2年生の妹の天(あめ)がいる事に気づいた。げっ! そういえば、天ってバドミントン部だったような……。会ったら気まずいから帰ろう……。私は急いでこそこそと公園を出た。 「ただいまー!」 午後6時、私がリビングで宿題をしていると、天がラケットの入った鞄を肩に掛けて帰宅して来た。やっぱり、あの公園にいたのは天だったんだ。あの時帰って来て良かった。 すると、天が私のところにやって来た。 「ねえ、桜子(さくらこ)お姉ちゃん。今日の夕方くらいに、近くの公園の林檎の木の下にあるベンチに座ってなかった?」 う……気づかれていたんだ……。私は首を横に振った。 「ううん。その公園には行ってないよ」 「そっかあ……そっくりさんかなあ?」 天は不思議そうな顔をしてリビングから出て行った。 それから私は天と会うかもしれないと思い、あの公園に寄り道するのを控えていた。 でもあれからだいたい二週間後、私はあの公園が恋しくなってまた寄り道するようになった。 やっぱり、この林檎の木の下にあるベンチは落ち着くなあ。今日は小説を読もうと、最近買ったまだ一回も読んだ事のない小説を開いた。 私は小説に夢中になっていて、夕日が現れるのにも、遊んでいた小学生が帰って行くのにも、宝石を散りばめたような星空にも気づかなかった。 「……えちゃん! 桜子お姉ちゃん! もうこんな時間なのに、何してるの!?」 聞き覚えのある、無邪気な女の子の声が聞こえた。はっとして声のする方を見ると、そこには天が立っていた。 「天!」 「桜子お姉ちゃん、やっぱりこの公園に来てたんじゃん」 天は微笑むと、私の隣に座った。 「うん……」 「実はね……私もよくこのベンチに座りに来るんだ」 天の意外な告白に、私は驚いて天の方を向いた。驚きすぎて、持っていた小説を落としそうになっちゃったくらい。 「そうなんだ……」 「うん。……ねえ、これから帰宅中にこのベンチに来て、相手が来るのを待とうよ。それで、二人でちょっとここで話したりしよ!」 なぜかこの天の提案が嬉しくて、私は頷いた。 「良かった! だって、家に帰ったって、お母さんとかお爺ちゃんとか『勉強しなさい!』ってうるさいもんね」 私は違う理由でこの公園に来ていたんだけど……でも、今は天の事を好きになったよ。 「やっぱり私達って姉妹だよね。隠れてこのベンチに座りに来るなんて」 私のこの発言で、私達はくすくすと笑い合った。 それから私達は晴れている日はこの林檎の木の下にあるベンチに座って、話したり、勉強を教え合ったりしたんだ。私達が仲良くなったのも、この林檎の木の下にあるベンチのおかげだよね。 私はふと見上げた。そこには林檎の木に花が咲いていて、まるで私達を見守っているみたいだった。ありがとう。
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いいお話
いいなぁ....林檎木の下... お話を読んでいると林檎の様なにおいが...