短編小説みんなの答え:4

【短編小説】母と、私と、おにぎり。

母の作るおにぎりは、いつもしょっぱい。 塩を振りすぎるからなんだ。 他の子のお母さんは、もっと器用なのに。 なぜ私の母だけ、不器用なんだろう。 そう思いながら、私はいつも、母の作ったしょっぱいおにぎりを食べる。顔を険しくさせながら。 シングルマザーの母は、早起きだ。 早朝に起きては、私のお弁当を作り始める。 朝の八時から五時までのパートで働く母の昼は、コンビニ弁当で済ませているらしい。たまに、タッパーに封じられた冷飯や、おかずなども持っていき食べるそうな。 一時期、そんな母の様子に、不安を覚えたことがあった。体調はどうか。過労などないか。我慢しているんじゃないか。 そんな考えを、朝食の並んだ食卓を挟み、口に出す。 しかし、母はいつもの通りに微笑んだ。 「あんたは子供なんだから、母さんの心配なんか、まだしなくていいの」 ……その笑顔は、毎日笑っている母の笑顔と全く同じで、変わりのないものだった。 「ちょっと、来なさい」 担任の先生から呼ばれ、私はおもむろに教室を出た。 どこか胸騒ぎがした。なぜなら、廊下を歩く先生は、険しい顔をして、始めに言ったからだ。 「今から先生の言うことを、驚かず聞いてください」と。 そして、先生の口から私へ、ゆっくりと、慎重に告げられる。 「お母さんが、倒れたそうです」 パート疲れだったのだろう。 母が横で倒れるという突然のことに、パートの同僚が混乱のあまり、慌てて救急車を呼ぶ騒ぎになったそうだが、幸い母は大事には至っておらず、単なる疲労だったらしい。 母は朝から顔色が悪く、少し貧血気味だと言っていたが……。 無理をしていたのだろうか。 私のために。 次の日から、母はパートを休んだ。休ませた、と言った方がいいのかもしれない。 とにかく、その時の私は、なぜだかもしかしたら母がパッと、どこかへ消えてしまうんじゃないか、という思いでいっぱいだった。だから、私は母へパートを休むよう言うしかなかった。 ある日家へ帰ると、母が当たり前のように料理を作っていた。 「……お母さん?」 「ああ、おかえり。 昼頃に体調良くなってきたんだ」 違うよ。そうじゃないよ。 胸の奥で何かが、きしむような音をたてた。 「何でもっと自分を大切にしてくれないの」 いつの間にか、胸の奥の想いは言葉になって、私の口から飛び出していた。まるで、慎重に、こぼれないように注いでいた水が、コップから溢れるように。 私は、母の目を見ることなく、奥歯を噛み締めながら、早足で部屋へ駆けていった。 言ってしまった。 母が頑張っているのは知っていた。 私は、それを“我慢”ではなく“愛”と受け止めることはできなかった。 私のために。 私のために。 私のせいで。 胸の奥で、その言葉は飛び交い、私の心に鋭く突き刺さっていった。 私のせいで。 その日、私は部屋から出なかった。 出れなかった。 次の朝、母はパートへ出た。 「いってきます」 という母の声を、自室の壁越しに聞きながら、私は「いってらっしゃい」とは言えなかった。 私は、その日学校を休んだ。 母には、「お腹が痛い」と仮病を使った。 そうした方が、毎朝お弁当を作ってくれたりする母の手間が、省けると思ったから。 私がいないことで、母が我慢を、苦労をすることがなくなると思ったから。 母が家を出たのを確認し、私は部屋を出た。 たまには自分で朝食を作ろうと思いキッチンへ行くと、そこには、一つのおにぎりがあった。隣あるチラシの裏に、母の筆跡で文が書かれている。 “朝ごはんは、おにぎりを食べてください。 塩はなしにしてみましたが、どうでしょう。 まだお腹が痛かったら、無理して食べなくてもいいよ” ……私は、母からの文を読みながら、思わずかすれた声を漏らした。 何故なら、その文章にはまだ続きがあったから。 “はやく元気になってね” “お母さんは、あなたのことが大好きだよ” “お母さんがいつも笑顔なのは、毎日あなたがお母さんを幸せにしてくれるからだよ” その言葉は、ボールペンで修正したように荒く線が引かれていた。 母の不器用さと、照れくささと、優しさが、伝わっていく。 私は、目の前のおにぎりへ、手を伸ばした。 食べる前に、きちんと「いただきます」と言う。 その時、目の前がかすんだ。 ……やっぱり、しょっぱいじゃん。 私は、頬をつたうしょっぱい何かを、手の甲で拭うと、むしゃむしゃとおにぎりを食べ始めた。

みんなの答え

辛口の答え

※きびしいコメントを見たくない人は
「見ない」をおすと表示されなくなるよ!

目からしょっぱいものが流れた

タイトルは泣いたっていう謎報告です。お気になさらず(笑) やっぱり作者様の描写はとても心に残って、素敵だなぁと感じました。心地よくて、癖になる。 「私のため」と2回続けたあとの「私のせい」という言葉が本当に好きです。胸が苦しくなりました。 描写のことばっかり言ってますがストーリーも破茶滅茶に好きです。読んでよかったーって思いました! 素敵なお話でした。ありがとうございました♪


凄い…!

絶句中です…。素晴らしすぎて何も言葉が浮かんできません…! 一瞬プロの作家さんかと思いました。 私は1年後にこんなに素晴らしい小説を書けるのでしょうか…(そんな訳ないだろこのバカ。あめ玉少女ララ子様に叶うはずないだろ!頭下げて謝れ! ←※自分に対してのツッコミです) もしも私が小説の審査員(?)だったら、そしてもしもこの小説が応募されたら、即採用する…、っていうレベルです。語彙力なくてすみません。 単行本で出版されて欲しいなぁ…。(←あ、独り言です。気にしないで下さい。)


←泣いてます。

感動 いい小説をありがとうございましたサイコウデス


親子の温かい話しいいね!

やっぱりしょっぱいじゃんって 涙のしょっぱさのことを言ってる んだよね?!いやー感動しました!


14を表示

他の相談も見る

ランキングページへ

相談に答える

相談の答えを書くときのルール

【「相談する」「相談に答える(回答する)」ときのルール】をかならず読んでから、ルールを守って投稿してください。
ニックネーム必須

※3〜20文字で入力してね

※フルネーム(名字・名前の両方)が書かれた投稿は紹介できません


せいべつ必須

ねんれい必須
さい

※投稿できるのは5〜19さいです


都道府県必須

アイコン必須

答えのタイトル必須

※30文字以内


じこしょうかいじゆう

※書かなくてもいいよ

※140文字以内

※自分の本当の名前、住所などの個人情報(こじんじょうほう)は書かないでね


ないよう必須

※500文字以内


辛口

※ないようがきびしいコメントの場合はチェックをつけてね!


ひみつのあいことばを設定してね

他の人にわからないように、自分しか知らないしつもんと答えを入力してね。

※ひみつのあいことばは忘れないようにしてください
「キズなんマイプロフカード」を使うとカードとしてスマホなどに保存(ほぞん)できるよ

※自分が選んだしつもんや答えが他の人に見えることはありません

ひみつのあいことばってなに?
なんのために設定(せってい)するの?

【ひみつのあいことばってなに?】

じぶんコードを作るための仕組みだよ。

じぶんコードは、「ニックネーム」と「ひみつのあいことば」から作られます。

【じぶんコードってなに?】

投稿(とうこう)が公開されたときに、ニックネームの後ろにつく英数字(記号ふくむ)の自分専用(せんよう)のマークです。

ニックネームの後ろにじぶんコードが表示されている例

【なんのために設定(せってい)するの?】

「ひみつのあいことば」によって、「なりすまし」をふせぐことができます

「じぶんコード」は、あなた自身が入力した「ニックネーム」と「ひみつのあいことば」から作られます。

それにより、同じニックネームだったとしても、それぞれの「じぶんコード」が表示されるので、別々の人であることがわかります。

ひみつのあいことば①必須

※使える文字: ひらがな・カタカナ・半角英数字

※半角カタカナ、全角英数字が使えないよ

※2〜20文字で入力してね

ひみつのあいことば②必須

※使える文字: ひらがな・カタカナ・半角英数字

※半角カタカナ、全角英数字が使えないよ

※2〜20文字で入力してね

※みんなで使うスマホ・パソコンではチェックしないでね

※毎日キズなんに来ていると、ずっと自動で入力されるよ。くわしくはコチラ