甘い夢を見させて
『お似合いで、ござんすねぇ』 カラン カラン 扉に付けてあったベルが、横に揺れ音をならす。 洋服店に来てみたは良いが、何を選べば良いのだろう、どれが私に似合うのだろうと、ずっと想像していたのに。 入ってみれば、そこは私の知っている洋服店ではない...いや、誰が見てもそうだろう。 だって、試着室しかないのだから、試着室しか。 洋服は飾られておらず、試着室が部屋の真ん中に置かれている。 『ようこそ、おいでやす』 あのおばあさんは?店主なのだろうか? 勝色の着物には、お華の柄が薄く、薄く咲いている。... 私は、この人と正反対なことに気づいた。私は品がなく、休日はパジャマで、重たい一重まぶたに低い鼻だ。 全てを思い出す。私は、可愛くなりたかったんだ。 フレアスカートを履くあの子が羨ましかった。あのゆらゆら揺れるスカートは美しく、目を奪われる時が時たまある。 『あなたのお望み、分かっているでござんすよ』 どういうことだろう?私のお望み... 『知ってるでござんすよ、可愛くなりたいとね。』 私は急に、引き込まれるように試着室に入りたくなる。入っていいのだろうか。 「あの、入って良いです...か」 その女性は聞こえないかのように無視をする。 イライラしたしまい、入ってしまった。でも、試着室にあるのは鏡だけだ。洋服などなかった。 私は、鏡を覗き込んだ。 すると、私の服装はロリータのような、可愛らしい服装に変貌していた。 「あのっ、これいつの間に」 私はあの女性に、いつの間にロリータになったのか聞くために、試着室を開けた。 するとそこには砂時計と、大きな時計が、チック、タックと鳴り響く。 誰もいない静かな空間に、時計の針の音が鳴り響く。 チック、タック...私の足音と重なってゆく。ヒールだろうか?音がよく似ていた。 ロリータは少し重いが、可愛く、見ていて飽きない。 チック タック これは、そういえばどうやって帰るのだろう。 先程の入り口に戻るか...帰れなくなっては困る。道を覚えているうちに... 私は辿った。だが、扉はなくなっている。 どうしてだ、どうして。助けを求めれる人は、いなかった。 いつの間に、ほろほろ涙があふれる。どうしようどうしよう。 『お似合いで、ござんすねぇ』 『お望み、叶えて差し上げましたよ』 という女性のセリフと同時に、私はもとの世界へ戻された。 私は昔通っていた道の、自販機前にいた。 私は、一瞬だけ、甘い甘い夢を見た。でも、甘すぎる魔法は毒のようだ。 私はまた、あの店にいったが、その店はいくら探しても見当たらなかった。
みんなの答え
※きびしいコメントを見たくない人は
「見ない」をおすと表示されなくなるよ!
良いですね!
どうも、凛です。 とても良い作品ですね! 才能あると思います。 「銭天堂」って読んだことありますか? 無かったらごめんなさい。 おばあさんの口調や、いくら探しても見つからないところが似ていたので。 読んだことなかったら、ぜひ読んでみて下さい。