「―君の歌声と青色のインク―」
海の見える静かな町で、僕はしがない物書きをやっている。 文字を、書いて、書いて、書いて。 何も得られないままで。 幸せの一つも得られなかった。 …いや、幸せなんて、欲しくなかったのかもしれない。 波の音が響く…。 青いインクで、また文字を書く。 満たされない想い。 そんな僕の心を書いていた。 「ラー…ララ―…」 波の音と少女の歌声が、耳に触れた。 現在、7月の初め。午後2時30分。 何かと思い、ベランダから覗くと、このボロアパートの一階で 16歳ぐらいの少女が、ギターと共に、歌っていた。 水色のワンピースで。 透き通ったような、キレイな声だった。 でも、邪魔をしたくないから、話しかけられないまま。 その少女は、毎日、昼頃になると、何処からか現れて、歌う。 夕日が輝くと、何処かへ行ってしまう。 長い髪をなびかせて。 僕はその歌声を聞きながら、終わりの文字を書いている。 1ヶ月後― 「やっと…やっとだ…!」 僕の3冊目の小説、「夏影、少女の歌声」は、 見事に売れ始めた。 ファンレターも、沢山届いた。 今まで満たされなかった心も、想いも。 「あの女の子のおかげだ。お礼を言わないと。」 アパートの汚れた階段を下る。 ―いつものように現れると思っていた。 …現在8月の半ば、3時25分…。 少女が現れない。 「手紙…?」 コンクリートの地面に、ひらりと置いてある。 メモ帳のような紙に、鉛筆で、何か書いてあった。 “あなたの文に、こんな私が出れてよかった。 私はもう、十分だから。 あなただけでも、素敵な文をかけるはずよ。” 涙目になっていく僕を、少女は知っていた。 「ありがとう。君の歌のおかげだ。」 夕日に、白い少女の影が映る。 今日という日を、一生忘れないと誓った。 感想、考察、たくさん待ってます!!! ありがとうございました!!