ひまわり畑で会いましょう
僕は植物研究者を目指している中学生だ。でも中学生ができる研究となると限られているので、学生割引を使って植物園に通っている。 いつも行く場所で、一つの違和感に出会った。いつもはいない女性。麦わら帽子に白いワンピースという、写真や絵ではありふれているがあまり見ない出で立ちだ。8月中句の暑さでも肌の白さをたもっている。 「君、いつもここに来てるわね」 いきなり声をかけられた。僕が見落としていただけで、この人もいつも来ていたのだろうか。 「はい…植物学者が夢なので」 「あら、素敵ね。そういえば名前をいってなかったわ。私はヒムカイアオイ。向日葵(ひまわり)と同じ字を書くの」 「きれいな名前ですね。僕は花咲真咲(ハナサキマサキ)といいます。花に、咲くに、真に、咲くと書きます」 「あなたもきれいな名前ね。お互いに花が名前にあるなんて運命みたい。あら、学者さんに運命なんて言わない方がよかったかしら?」 「まだ学者じゃないんですけどね…」 翌日もそのまた翌日も彼女は植物園にいた。思い出を話したり、雑談したり。そのうちに仲良くなった。 8月の終わりごろ。 「もうすぐ、夏も終わるわね」 「はい。夏休みが終わったら、あまり会えないかもしれません」 彼女は一瞬、ひどく悲しそうの顔をした。 「あなたにしか話せないことがあるの。8月31日の23時、ひまわり畑に来て」 日向さんはそれきり、口を開かなかった。 31日、23時。約束のひまわり畑で、日向さんは待っていた。 「来ましたよ」 「ありがとう。話していいかしら。時間がないの」 頷くしかできなかった。なぜか、日向さんが寂しそうに見えた。 「私はね。ここで死んだ幽霊なの。夏しか出られないの。」 言いたいことが山ほどあるのに、口をぱくぱく動かすことしかできない。 「もし、あなたがよければ、来年の夏にひまわり畑に来てよ」 「はい…約束します。ひまわり畑で会いましょう」 日向さんは消えていった。秋が始まって行く。