僕が好きなのは字だけじゃなくて
いつものように高校の門をくぐり、教室へ入る。自分の席へ向かう。“石井千佳(いしい ちか)”と書いたシールが貼ってある。 僕の名前だ。それから、読書中で隣の席に座っている少女の肩を驚かせないように優しく叩く。 髪をふわっとさせながら振り向かれた。それを確認してメモ用紙を見せる。 『おはよう』 それに気付き、相手も紙にペンを走らせる。 『おはよう!』 彼女_____といっても彼氏彼女といった関係ではない、…今はまだ。_____との出会いは、三ヶ月前の入学式の日。 教師が自己紹介を始め、生徒も席順に名前や趣味等を話していく。知り合いがいないから名前と顔を覚えなくては。 もうすぐ僕の番だ。体が強張る。 「次」 「えっと、石井千佳です。趣味は…音楽を聴いたり本を読んだり、です」 パラパラと拍手が起こる。人前で喋るのは嫌いだ。緊張で他の人の情報なんてほとんど忘れてしまったし。 次、と教師が言う前に、隣の席の少女は立った。 そして……黒板に文字を書いた。 『立川慧(たちかわ けい)です 音があまり聞こえないので筆談してくれると嬉しいです』 文字を消し、自分の椅子に座る。 『あなたの名前は何ですか?』 そう書いた紙を僕に見せ、首を傾げる。僕はいろいろな意味で少し動揺しながら、メモ用紙を出して 『石井千佳 千佳は“ちか”って読む 本が好き 立川さんよろしく』 と書いて見せる。 『ありがとう よろしく』 と彼女は嬉しそうな笑顔になった。 そんなことがあり、僕は慧と休み時間や放課後、たまに授業中に筆談で話すようになった。 “慧”と呼ぶのは彼女がそれでいいと伝えてきたからである。“立川さん”も“慧”も画数はほぼ同じでしょ、と。 そういう問題ではないと思うが断ることができなかったのだ。 放課後、僕が、筆談で話すのを気に入った、喋るの苦手だから。と伝えると、慧は複雑な表情をしていた。 彼女としては、逆に、声を使って会話したいのだそう。僕と反対だ。ペンで付け加える。 『訂正 慧と 筆談するの好き』 いくらか複雑度は下がったが、頭の上に“???”が見える。しばらく無言状態。いや、無言なのはもう当たり前だが。 少し経つと、 『私も千佳と筆談するの好き』 それは反則、自分の顔が赤くなったように感じるが確認する術がない。…よく考えたら僕の台詞も結構…顔が熱い。 『千佳の字が綺麗だから!』 可愛らしい字が乱れた。よく見たら彼女の顔も少し色づいている。照れているのか。かわいい。 また慧のペンが動いた。 『あと、メールとかも していい?』 え?今までの恥ずかしさで踏ん切りがついたのか、割と凄い要求を出してくる。 『夜寝るまで 外も暗いし何も聴こえなくて 怖いから』 …こっちは多分言い訳じゃない。初めて弱音を聞いたかもしれない。そりゃそうだ。僕だってそんなの怖い。 『うん分かった 慧が眠くなるまでずっとメールに付き合うよ』 黙ってアドレスを交換する。高校では初めての交換だ。 もちろん、他の人と交換する間柄になるようなコミュニケーション力がないので当然である。 スマホも筆談に使えるなぁ、と思いながらテストメール文章を打ち込む。 …自分の端末の初期通知音が鳴る。慧からのメール。 『テステス』 なんか可愛い。 すぐ後、慧のスマホが無音で震える。僕の体も少し震える。 画面を見た彼女は嬉しそうに、恥ずかしそうに笑って首を縦に振る。どうやら届いたようでほっとした。 今更ながら気づいたが、夜が怖いなら道路もなかなかに怖いだろう、と車が少なくなる道まで送る。 慧はスマホを取り出して手を振る。 『送ってくれてありがとう また明日』 『じゃあまた明日』 僕も手を振った。 テストメールの内容は___ ー終ー 拙い部分もあると思いますが読んでくださった方ありがとうございました!
みんなの答え
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いい話(感動)!
こういう感じの話大好き!どっちも繊細で、可愛い☆無音さんの短編小説、また読みたいです!!!
可愛い(*´`)
声色や外の喧騒を想像しなくていいお話な分、じっくり楽しめました。面白かったです! キャラクターが可愛いし、加えて構成がとんとんって綺麗に進んでいくので、どんどん可愛いから全然飽きませんでした(´∀`*) 素敵なお話ありがとうございました♪
感想
いいですねっ 文章の構成とか、表現が好きです。 お話も可愛くてほっこりしました! とても楽しく読めました! ありがとうございます!!