顔色を伺う
「塾も考えた方がいいかしら? 美優の自由だけど……」 テストの結果表を見て、母がため息をついている。 あぁ、塾に行ってほしいんだな。そう悟る。 「……じゃあ行こうかな」 「本当に良いの?」 行かせたがってたの、あなたじゃん。駅前の塾のパンフレット集めてたの、知ってるよ。 そう思うけど、そんなこと言ったら不快な気持ちにさせるから。 「うん」 と答えた。 美優という名前は、心が美しく、優しい子に育ってほしいという願いからつけられたそうだ。 美しいかは知らないけど、優しいねってよく言われる。……どんなときに言われるか、覚えてしまうくらいには。 授業中、誰も手を挙げなくて。授業が進まなくて先生困るなって思って。 はい、と手を挙げて自分の考えを述べる。わからない人がいたときのためになるべく詳しく説明して。 すごいね、なんて言われたときは、たまたまだよーとごまかす。 そうすれば相手も不快な気持ちにならないでしょ? そんなふうに気を遣いすぎる毎日。 相手が幸せな気持ちで、何事もなく過ごせるなら。自分が損をすることは厭わない。 相手が笑ってさえいれば、私も幸せだもん。 感謝されなくても良い。誰に気付かれなくたっていい。 ……そう思ってたんだけどなぁ。 『なんで何もやってないの!?』 『私のほうが大変なんだから』 『たまには気を遣って!』 お母さんが、そんなことを言ってくるようになった。 あれ、私はいつも気を遣ってるのにな。 私だって大変なことあるのにな。 あ、私のことを気遣えないくらい、お母さんは疲れてるんだ。 そっか。じゃあ色々やってあげなきゃ。 でも、これもあれもと、要求は増えていく。 最初はお風呂を沸かすだけで褒められたのに、いつのまにかそれが当たり前になって。 洗濯物の片付けも、食器の片付けも、掃除も、夕食の準備も。 だんだん褒められなくなって、感謝されなくなって。それが当たり前になって行く。 当たり前のことに、人は感謝しない。 ……感謝されなくて良いって思ってたはずなのに。 一度されてしまったのがいけないのかな。 あったものを失うと、人は虚しくなるのだと知った。 「美優って、なんで塾に来たの?」 塾の友達に聞かれた。 「お母さんが行って欲しそうだったから」 そう答えると、彼女は困惑した顔をした。 「行って欲しそうだったから?……行けって言われたんじゃなくて?」 「うん」 「え、なんで? 来たかったの?」 彼女の言葉を聞いて、少し悩む。来たかった、のかな。 いや、別に。 「そういうわけじゃないよ」 「え、じゃあなんでよ」 なんで、という言葉をいっぱい言われる。 どう答えるのが正解だろう。嘘はつけないしなぁ。 「行ったらお母さんが喜ぶから」 これがほんとのこと。嘘はついてない。 「え、美優の気持ちは…美優はどうしたかったの?」 彼女はそう問う。私の、気持ち? どうしたかったか? 塾に行きたかった?……そんなわけない。 新しい場所になんか行きたくなかった。なるべく人と関わりたくなかった。勉強なんてしたくなかった。 それでもするのはお母さんが喜ぶから。 ────私の気持ちは? 「……行きたくなかった」 そう呟くと涙が、じんわりと溢れてきた。 「行きたく、なかったよ」 あーあ、ここ塾なのに。 泣いたら迷惑かけちゃう。 みんなを困らせちゃう。 泣き虫な子って思われちゃう。 友達だって困ってるよ、絶対。 顔をあげたら、 (ほら……) ね?と続くはずだったのに、その1音は消えて行った。 彼女はとても優しい瞳をして、ふわっと私の頭を撫でた。 「偉かったね、よしよし」 彼女の声はすこしだけ演技かかっていたけど、それがまた、すごく甘やかされているように私に感じさせた。 「お母さんに、気を遣ってたんでしょ?」 なんでわかるんだろう。 うん、と頷くと 「本当は来たくなかったの言わなかったのも、私のこと気遣ってくれてたんだよね? ありがとう」 本当に、なんでわかるの? と思いながら、頬の涙を雑に拭う。 偉かったねって。 ありがとうって。 言ってもらいたかったことを、彼女は言ってくれた。 「そんなに気遣わなくても、私は離れていかないから。ね?」 「ほんと?」 「ほんと」 「じゃあさ」 ぎゅってしたいの。 いつもだったらこんなこと、絶対に言わない。でも 「いいよ?ほら」 そうやって手を広げてくれる彼女になら、本音を言っても良いかもしれない。そう思った。 END 読んでくださり感謝です!楽しんでいただけたら幸いです。 臣です。おみ、と読みます。長野ではちょっと積雪しました。皆さん、寒さと乾燥にはご注意を…! 感想やアドバイス、お待ちしてます。応援してくださる皆さん、大好きです! ※他人を傷つけることは、絶対にしないでください。
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ありがとうございます
はじめまして。千月留(ちづる)と申します。 私も、美優ちゃんのように、気を遣いすぎてしまうところがあって。 美優ちゃんと同じようなことで、「辛いな、苦しいな」って思っていたので、この小説を読んで、救われた気がします。 書いてくれて、ありがとうございます。 私の方が下手なのも、厚手がましいのも十分にわかっていますが、アドバイスという形で1つ、思ったことを伝えさせていただきます。 今の時点でもすごいから、もっと上達したら……という私の妄想、かな(笑) もちろん、取り入れなくても全然構いません。 この文章を読んで、少し説明的すぎるかな、と感じました。 主人公の五感を介して、私たちにもそれが伝わってくる。 小説はそういうものだと思っています。 だからそれをもっと使いこなせたら、この小説はもっといいものになるなぁって。 『あったものを失うと、人は虚しくなるのだと知った。』という文、グッときました。 臣さんの文章、どこか惹かれます。
じ~ん(涙)よ。
今回の作品も素晴らしすぎるほど素敵。 私、いつも美優みたいな感じです。 何か今回の作品には共感しました。 次回作も待ってます。
ども!
柚柚です! かつて前に他のニックネームで投稿した小説にコメント頂き、ありがとうございます(*^^*) (ちなみに、さとです。) よしよし、の所、ほんと、いい友達だな…と思いました(^q^) 臣さんは、上手な小説ばかりなので、たくさん友達もいるでしょうね(-_-) また、読めたら、絶対読みますね\(^o^)/
友達大切、これ大切。テスト出るよ←
こんにちは! ましろです(*´∀`) これ読んで思ったのが、やっぱ否定せずに自分を受け止めてくれる人って大切だなぁと。 それが臣さんの言葉で綴られると、なんか感動(´;ω;`) 「行きたく、なかったよ」 これ本当ヤバかったです。 臣さんって読点の使い方上手すぎる……(笑) 素敵な小説ありがとうございました! 後雪積もったって良いな~とか思ってた。うん。ちょっと分けて♪((は
臣さーん
こんにちは。太鳳です! 主人公の性格が自分と重なって、すごく励まされました。臣さん本当にありがとうございます。 私は美優ちゃんほど優しくないけど、いつか美優ちゃんみたいに優しくて気の使える女の子になりたいなって思いました!
待ってました!
臣ちゃんの小説! どうして待っていたかというと、読みたかったからっていうのはもちろんなんですけど、お礼が言いたかったんです! 私なんかの小説にコメントしてくださりありがとうございました!まさか臣ちゃんに褒めていただけるなんて……! 自信がついたので、これからも小説投稿頑張ろうと思います♪ 本題へ。 なんかもう、凄すぎて語彙力が…… 私も割と気を遣ってしまうタイプなので、美優の気持ちがすごく分かります! 受け止めてくれる友達ってありがたいですよね。私もそんな人になれたらいいな~。 最後のメッセージ、キュンとしました!私も大好きです! これからもずっと応援します!それでは♪
……良いお話っ!
いいお話ですねー!「偉かったね、よしよし」のシーンが好きです! 臣さんの短編小説、楽しみにしています! 読ませて頂き、ありがとうございました。
一緒だ…
面白いぐらい私と一緒です! 私も気を遣い過ぎてしまいます。 キツイですよね
お友達が、、、!
こんにちは。 気を遣いすぎちゃう人より、 なんでも受け止めてくれるような人って 優しくていいですよね。 そっちが本当の優しさなのかなと。 そんな人になりたいと思いました。 いつも素敵な小説ありがとうございます。 また読ませていただきます。
最高!
こんにちは。まるもっこです=(^.^)= 今回もすんごくいい話でした! 友情を感じたし、こういう友達に私も救われてるなと思いました。 私も美優みたいな感じのことを考えちゃいます。 わかってしまうんですよ! なので共感するところが盛りだくさんでした。 最後、美優が本当の気持ちを打ち明けたシーンは グッとくるものがありました。 読者に対してのメッセージもあって、臣さんの小説は やっぱり人の心を動かす作品だなと思います! もう尊敬です!素敵な作品が読めてよかったです!