もし、物語の主人公なら
あと、3分… 息をつめながら、雪村羽衣菜(ゆきむら ういな)は思う。 あと、3分で、YouTuberの「レン」くんが配信を始める。 親はもうとっくに寝ていて、家にある電気はほとんど消されているなか、羽衣菜の部屋のデスクライトだけがぼんやりと光を放っていた。 レンくんの動画をみはじめたのは、レンくんがYouTuberになって、少ししたころだったから、もう、4年間はみていることになる。 動画は必ずチェックするし、配信は深夜でも平日の昼間でも必ずみている。 だって、初恋の相手だから。 歳は、公開されてはないけど、たぶん、20代後半。 ゲーム実況者で、YouTuberになる前は、プロのチームに所属していたらしい。 いつも落ち着いていて、低音だけど可愛げのある声。 それに、ホラーが苦手で実は田舎出身というギャップが完全にわたしを沼へ落とした。 それからは、グッズを買うために、はるばる東京へ行ったり、お小遣いを削ってスパチャを送ったりして、それなりにオタ活をエンジョイしている。 今日は、渋谷に来て、レンくんのグッズを買いに来ていた。 洋服は、優しい黄色のワンピースに、ブーツ。 黄色は、レンくんのイメージカラーだ。 髪型は、いつも、出かける時はポニーテールだけど、今日は、ハーフアップにしている。 平日の昼間でも、お店は混んでいた。 さすが、渋谷。 川崎市とは大違い。 なぜ、学生であるわたしが、わざわざ平日の昼間に渋谷に来たのは意味がある。 レンくんと会うため。 レンくんは、前に、いつかグッズを売っているお店に行く、と言っていた。 いつに行くかは言っていなかった。 それを聞いて、わたしは、レンくんの配信スケジュールを隅から隅まで見てみた。 配信の予定が、全くない日を探した。 配信の予定が全くなくても、お店に来るとは限らないけど、いいのだ。 レンくんは顔出しをしていないから、来ても、わからない。 裏を返せば、来ていなくても、わからない。 だから、レンくんが来そうな日に、お店に来て、レンくんと同じ日に同じ店に来ることができた、と思うことができる。 本当はその日にレンくんがいなかったとしても、気持ちの問題だ。 レンくんと同じ空気を吸えた、と思えるだけでいい。 それから、ずっと、お店にいた。 ぼんやりしながら、ふと考える。 妄想の中だったら、小説の主人公だったら、少女漫画の主人公だったら、今、レンくんにバッタリ会えたりしたんだろう、ピンチを救えてもらったんだろう、と。 そんなことを半分期待して、半分諦めながら、二時間ほどお店にいた。 案の定、少女漫画的な展開はなかった。 だけど、がっかりはしていない。 だって、 わたしは、小説の主人公でもないし、少女漫画の主人公でもない。レンくんと仲良しでもないし、恋人でもない。 今、「現実で」「雪村羽衣菜」として、生きて、レンくんに片想いしてるんだ。 そう思えたから。 ~後書き~ こんちゃっちゃ!ゆきみ大福だよ! 小説を書いたのは、初めてで楽しかったです♪ 感想を聞かせてくれるととっても嬉しいです! 辛口はもちろん×! ではではー♪