嘘つきのヒーロー、弱虫のヒーロー。
秋(しゅう)が死んだらしい。 山の斜面にある俺たちの通学路から大きな岩が落石して、 その岩から小さい女の子を守るために少女を抱き抱えながら死んだらしい。 秋はいつもいじめられていた。 いつものろまでバカで運動音痴な秋はいじめの標的になっていた。 そんな秋を見かねた俺は、周りにバレないよう、こっそり秋の友達になった。 俺は運動も勉強も何もかも完璧だ、と嘘をつきながら。 嘘をつくことで、秋が勇気を出せると思ったから。 秋からはいろんな夢を語られた。 俺はいつか世界に羽ばたくんだ!って。 かけ離れた夢ばかり語るやつだったけど、 俺はいつのまにかそんな秋のおかげで勇気を出せていた。 俺と同じように欠点ばかりの秋だからこそ、そんな姿がかっこよかった。 そんな秋を不意の事故で失ってしまった俺は、感情が追いつかなかった。 「今ならまだ、秋に会えるかもしれない。」 俺は自分でもよくわからないような希望を持って、自転車で秋の死んだところまで行った。 そこまでする思いの中にはきっと、『嘘をついていた』という事実を秋に伝えたかった俺がいるんだろう。 汗をかき、息を切らしながら自転車を漕いだ。 途中の花屋で秋のための花束を買って。柄じゃねえと思うけど。 秋のところへ着いたが、やはり秋はいない。 やっぱり、秋は死んだんだ。早く秋の葬式に行かねえと。 すると、首元にひんやりとした風が吹いた。 「秋…だよな…?」 「そうだよ。会いに来てくれたんだね、冬(ふゆ)。」 弱い俺は、涙がこぼれ落ちそうになる。 「死ぬなよ、秋…。生きろよ。」 「ふふ、もう死んでるよ。伝えたかったのは、それだけ?」 「…違う。秋、俺はお前に。嘘ついてたんだ。ずっと、俺は完璧だって秋に言ってた。 だけど、ちっとも完璧じゃないんだ。俺はヒーローじゃない。弱い弱い、ただの冬なんだ。」 「…、そんなの、どうでもいいんだよ。冬が完璧じゃなくても、 俺はずっと冬の友達だよ。それに、冬は弱くなんてない。 ひとりぼっちの俺を助けてくれた、立派なヒーローだ。俺はそんな冬に憧れて小さな女の子を守った。 冬のおかげで、女の子を助けることができたんだよ。」 「…ぐっ…うう…うわあああああ!!死ななくても…死ななくても!! お前は俺にとって、立ッ派なヒーローだったんだ!!俺は、かけ離れた夢でも目ぇキラキラさせて語る、 お前にずっと憧れてた!!全部お前のおかげだよ…秋、今までありがとな…!!」 最後にそれを言ったっきり、もう秋の声が聞こえることはなかった。 するとすぐ近くの人に気づいた。秋をいじめてた奴らが、 俺が秋に花束を置いたところを見ていたのだ。 こんなことをしていたのがバレたら、きっと次にいじめられるのは俺だろう。 「おーいおいおい!お前、そこで何してんのー?」 気だるそうにニヤニヤと笑いながらその中の一人が話しかける。 「えー、何これお花ー?お綺麗なこと。押し花にしてあげましょうか!!」 花束を踏み潰そうと足を振りかざした。 「やめろ!!この花は、断じてお前ら“なんか”のための花じゃねんだよ!!」 俺はそいつの足を蹴った。こんなことをしたのは、生まれて初めてだ。 正直、すごく怖かった。だけど、俺の背中には、いつでも友達のヒーローがいる。怖いものなんてもうない。 「ああん!?「お前ら“なんか”」だと!?てンめェ、2軍でも3軍でもねえようなお前が!! 誰に口聞いてんのか分かってんのか!!」 そう言って、奴は俺の顔を殴った。 「ッ…!!確かに俺はなんでもねえ!!ただの陰キャだし、友達の数だってお前らの方が多いだろう! だけどな、ここは俺のヒーローの死に場所だ!!俺のことはいくらバカにしても構わねえが、 俺の誇り高き友達のことをバカにしたら容赦しねえぞ!!」 「そういうところが生意気だって言ってんだよカスが!!」 そう言って奴らは俺を殴る。俺も殴り返す。何度殴られようと、立ち上がる。あいつの墓を守るために。 いつか、あいつみたいなヒーローになるために。