短編小説みんなの答え:2

夏祭りの幻

 「はあ……」 一人で来る夏祭りはこんなに惨めなんだな、とため息をつく。 周りを見れば、カップル、親子連れ、友達グループ。 彼氏にフラれたばかりのあたしにとって、ここはあまりにも辛かった。 本来なら、ここには彼氏と来る予定だったのだ。 あたしは喪失感で再びため息をつく。 「どうしたの?」 ふと、澄んだ声が聞こえて顔をあげる。 そこで柔和に笑っているのは、どこか浮世離れした印象の、綺麗な青年だった。 細く華奢な体つきに真っ白な肌、茶色い髪。 こんなに美しい男の子を見るのは初めてだ。 「君、名前は?」 彼が優しい声で問いかける。 「……夏目来望(くるみ)」 「来望ね。僕は逢坂遥夢(はるむ)。よろしく、来望」 い、いきなりの呼び捨て!? 「よ、よろしく……」 あたしは頬の熱を感じながら言った。 「ところで来望、今って一人?」 「……一人、だけど」 「じゃあ、一緒に回らない? 僕も一人なんだ」 そうか、この人も一人なんだ……。 ちょうどあたしも寂しかったことだし、そうしよう。 「うん」 あたしは彼の隣に並んで歩き出した。  かき氷、りんご飴、チョコバナナ、焼き鳥……。 定番の食べ物を片っ端から買っていく。 「遥夢くんも食べなよ」 あたしは買ったばかりのりんご飴を差し出す。 「ううん。僕はいいよ」 しかし、遥夢くんは何を渡そうとしても悲しそうに首を振るだけだった。  そろそろ夏祭りが終わりを迎える頃。 「遥夢くん、また、会える?」 あたしが恐る恐る聞くと、遥夢くんの表情が少し陰った。 「どうかな……でも、会えるといいね」 そして、あたしたちは夏祭り会場を去った。  それから、あたしは密かに遥夢くんを探している。 しかし案の定、遥夢くんは見つからなかった。 「遥夢くん……」 自然と涙が溢れる。 会いたい。会いたいよ……。 「――来望」 声のした方を振り返ると、遥夢くんがいた。 あたしは涙を拭いながら走っていく。 しかし、彼に触れようとした手は宙をきる。 よく見ると、彼の体は少し透けている。 「遥夢くん?」 「ごめん、言わなくて。僕、実はもう死んでるんだ。何も食べなかったのもそのせいだよ」 あたしは言葉を失った。 「僕はもうすぐ消える。だから」 「行かないで!」 遥夢くんの体が徐々に薄くなっていく。 「来世で、また会おう」 遥夢くんが完全に消え、あたしの嗚咽だけが響いていた。

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