短編小説みんなの答え:3

生きてるって幸せなんだなって。

「...あ」 気づいたらお母さんのことを見てる。 なんでだろ。 目があって2秒。 逸らしちゃうのはなんでだろ。 恥ずかしくて窓を見る。 雨が降ってるのはなんでだろ。 それから頭の中がいっぱいになって 私は今日も嘘をつくんだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 「めいー!今日はどうだったのっ??好きな男の子のこと」 「こっち向いてニコって笑ってくれたよ」 ほーら。また嘘ついた。 心のなかであっかんべ。 「あはっ めいってばモテモテだねぇ」 お母さんはそう言ってゴシゴシ私の頭を撫でた。 その手に、私の手を重ねる。 少しだけ、強くなれた気がした。 ーーーーーーーーーーーーーーーー ほんの少しの、昔の記憶。 大事な大事な、私の記憶。 それをそっと胸に押し戻しながら、また窓を見る。 降りしきる雨は、いつの間にか止んでいた。 ふぅ、と吐いた息を戻すように大きく息を吸って、胸に溜める。 幸せな気持ちが、心に広がる。 生きているって幸せだなって思えた。 ーーーーーーーー-ーーーーーーーーー お母さんの危篤状態(きとくじょうたい:回復の見込みがないこと)が知らされたのは午前1時。 前々から入院していたので、病院はわかっている。 私が外へ出ると、雨が降り出した。 傘も持たずに走っていたとき、ふと思った。 私って哀しい人間なのね、って。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「201...」 お母さんの病室を目の前にして、ため息が漏れる。 ガラガラガラ、とドアを開けると、そこにお母さんはいなかった。 「中山さんのお子さんですか?」 背後から声がした。 振り向くと、看護師さんだった。 「...はい」 服の裾をぎゅ、と握った。 これは私の悪い癖。 「中山さんなら、集中治療室にいますよ」 「それに、今は午前1時ですから、中学生は家に帰りなさい」 看護師さんは私の服を見て言った。 たしかに私は制服を着ている。 誰がどこからどう見ても、東中学校の中学生だ。 「でも...お母さんはどうなっちゃうんですか!?死んじゃうんですか!?ねぇ、なんとか言ってよ!!」 看護師さんは私に、落ち着いた声色で、それでいてしっかりした瞳で私に言った。 「あなたはとってもお母さん思いなのね。そうね、中山さんも言っていたわ。『私はすごく愛されてる』って。」 「でもそれが負担になって病気にかかるケースも有るわ。そうね、橙色の痣が出現する怖い病気とか」 私は『橙色』に引っかかって、私の頭の辞書をパラパラめくった。 そっか、あの時のあの肌の痣は―――。 「その痣はね、治療法の無い原因不明の病気でね、中山さんも、『あの子を思うたび、肌がチリチリ痛くなる』って言ってたわ」 全部、私のせいだ。私が甘えたから、私が頼ったから、全部全部、私が―――。 「私が死にます!なぜお母さんが死ななくちゃいけないの!?お母さんの代わりに、私が死にます!」 気づいたときにはそう、口から出ていた。 「それは、無理なの。ごめんなさい。私には、何も、してあげられないの...。」 そう言うと看護師さんは泣き出した。 さっきの凛とした態度はどこへやら、背中を丸めてただ泣いていた。 「私も」 「息子を失ったの」 看護師さんがポツリポツリ話しだした。 空は鮮やかな群青色から、橙色へと姿を変えていった。 「息子は7才の頃にその病気が見つかってね、9才の頃この病院に搬送されたの」 「毎日元気な声で挨拶してくれてね、めったに病気はかからなかったんだけど。私に、胸がチリチリ痛む、って言ってきたの」 私は話の内容を聞き逃さないようにゆっくり言葉を飲み込んだ。 「検索しても出てこないから...。ほんとに毎日が苦痛だったわ」 「だから少しでも笑顔でいようと、少しずつ笑わせてたの。でもそれが原因だなんて...」 看護師さんは、橙色の空を見て、言った。 「息子はね、今も私を見てるの。大丈夫って言ってくれてる気がするのよ」 そう言うと、看護師さんが私の方を見た。 しっかりとした、瞳で。 「だから、信じましょう。この先、どんな辛い未来だとしても。お母さんを.....信じなくちゃ」 そう言うと看護師さんはにっこり笑った。 その笑顔が少しだけお母さんと似ている気がした。 「...っ、はい!」 私もとびきりの笑みを浮かべた。 お母さんに、届くように。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 「お母さん、ありがとうね」 私はそう言って、今日もまた、会社へ向かう。 この一日が、 一生続きますように。 そんなこと、叶えられないけど、 いつまでも、そう思ってたいんだ。 ーーーーーENDーーーーーー

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