初恋
せみがなき。空から向かってくる風が私をさらに暑くする頃、ふと思い出す受験生の夏。 「好きです。付き合ってください。」 そういって私に手を差しでしてくれたのは、4月から同じクラスになった鈴木君だった。 小学生のとき家が近くて一緒に帰っていた時からずっと好きだった男の子だった。けど、それをなかのいい友人に言ったことも家族に話したこともなかった。叶わないと。私と彼ではつりあわないと。自然と諦めていた。クラスの女子の大半は彼のことを一度は好きになっていたし、唯一の友人も彼のことが好きだった。 彼が告白してくれたのは、久しぶりに一緒に帰った別れ際だった。少し汗ばんだ首もとでさえも彼を美しく引き立てているようで、キラキラしていた。「私でよければ。お願いします。」そう言いかけて喉がつまった。お父さんは、お母さんは、唯一の友人はなんと言うか。許してくれるのか。答えはわかる。考えなくても手にとるようにわかる。クラスに知れわたり、両親の耳にも入り私は怒られ彼と別れろと言われ、彼をきっと傷つけて、彼と次に付き合う子は、彼の初めての恋人になれなくなる。唯一の友人もいなくなる。 「ごめん。サラ驚かせたよな。俺はいつまでも待つからさ、ちゃんと考えて欲しい。」 少し申し訳なさそうな顔をしたあと、またいつもの太陽のような笑顔でじゃあな。と言って走っていった。 家に着くと、予定していた帰宅時間から20分過ぎていて玄関でお父さんが待っていた。 「何をしていた。時間厳守といつもいっているだろう。まさか、男じゃないだろうな。」さっきまでの事を言うこともできなくて下を向くと。腕を強く握りリビングまで離さなかった。もつれる足をなんとかしようとした。前を向いたままお父さんは「ケイトがお前に会いに来た。」とだけ言った。最近は痛覚がにぶっているのか、痛くはなかった。ただ血が止まりそうなくらいに圧迫されているのはわかった。 リビングの扉の前で腕を離してくれた。ケイトは私の婚約者だった。小さい頃に親が決めたそうだ。でも、彼の前では私は私でいられなかった。いい人だと知っているのに、楽しくもなく、ただ、愛想笑いを繰り返すだけ。作業だ。一度だけ、ケイトのことを好きだと言う女子が彼と別れろと言ってきたことがある。その人と彼が結ばれたら私は自由になれるのかと思うと早くそうしてほしいと思った。 友人が一人しかいないのは、お父さんがその人としか遊ぶなと言ったから。私は教師になりたかったけど、お父さんが医者になれといったから医者を目指す。ケイトのことだってそうだ。 来世は鳥になりたい。それが私の口癖だった。 その日から、鈴木君が少し気を使うようになって結局私をいつまでも待つと言った夏は遠く過ぎ冬になった。結局、彼が他校の女子と付き合っていると噂が流れ私は、返事すら返さなかった。そして、ケイトも鈴木君と同じように私ではない他の誰かを選んだ。でもそれは、初恋だった鈴木君を失い、ケイトという縛りから解放された、私のスタート地点なのだとその頃信じた。信じたかった。 カタン。ポストに何か入った音がして、現実に引き戻された中に入っていた手紙の差出人は告白してくれた10年前の鈴木君からだった。タイムカプセル郵便というものを使ったらしい。丁寧にハサミできるとかわいい便箋に勢いのある文字がならんでいた。 10年後のサラへ こんにちは。俺は告白した年にいる。 まず、ひとつ言いたいことがある。俺は他校の女子とつきあってない。 友達が思い込んでるだけや。俺はお前がすき。結局いつ返事くれるん、、、。 いつまでも待ってる。あー、なんかめっちゃ恥ずかし。球技大会でサラがバスケで シュートするとこは、ほんまかっこよかった!俺も負けてないけど。 それに、久しぶりに一緒に帰れてたのしかったな。 サラはどんな大人になってるんやろ。はよ見たいけど、10年後もう結婚してるんかな。 俺じゃなかったら、この手紙どーすればええん、、。どちらにせよ流石に、老いる前に告白の返事くれるよな? 俺はサラに一緒にいてほしい。 鈴木 むつき 涙でにじんで、にじんで字が読めなくなった。「なんで、、、何度だって。言うよ。言いたいよ。あなたが好き。好きで好きでたまらないのに。なんであなただけがこの世界にいないの?」ただやり場のない悔しさがあふれでる。