花と水
彼女は、俺の花だ。俺は、彼女の水だ。 俺は雪薪。彼女の名前は流瑠(るる)。若くして彼女は世界に名の響くような大女優であり、 俺はそのアシスタントをさせてもらっている。 俺は彼女を愛していた。恋愛感情ではないけど。 彼女は凛としているのに抜けているところがあって、 指摘されては少しはにかんで、太陽のように笑って見せた。 それとは裏腹に、舞台の上では持ち前の演技力で次々と観客の心を掴んでいく。 「私ね、いつか世界一の女優になるの。誰かの人生を変えられるような、すごい女優になってやる!」 「うん。流瑠ならきっとなれるよ。」 「ううん、私だけじゃ無理だよ。私の隣には、雪薪(ゆきまき)さんが必要なんだ。 私はみんなの花になる。でもその私が花になれるのは、雪薪さんがいるからなんだよ。」 「うん…?」 「あ…えっと、だから…雪薪さん、これからもずっと私の隣にいてね。」 「うん。俺は何があっても、流留の相棒だよ。」 流留に必要とされているのが伝わって、とても嬉しかった。 彼女は俺がいるから輝けると言ってくれた。俺も彼女の期待に応えなければ。 「じゃ、今日は解散。ありがとね、雪薪さん。」 「ああ、じゃあね。」 そう言って、彼女は駆け足で会社を去っていく。 流石にあんな華奢な女の子一人では危ないのでタクシーに乗せる。 ああ、明日も彼女に会うのが楽しみだ。 スマホの着信音を聞いて目覚めた朝。 後輩の高橋からの連絡らしい。何事かと確認すると、そこには、 「雪薪先輩!流留さんがタクシーで事故って…心肺停止って!!」 と書いてあった。 「は…?」 思わず声が出てしまった。 どういうことだ?流留が心肺停止?ありえない…そんなわけがない。 そう思って流留のことについて調べると、真っ先に出てきたのが「女優の流留が死亡!」 とかいた記事だった。 「嘘だ、嘘だ…。」 俺は布団のシーツを握りしめる。 急いで服を着替えて、職場まで行った。 職場の空気はずっしり重かった。 その中に、流留の姿はない。 職場に着くまでに流留の楽屋も確認したけど、どこにも流留はいなかった。 「高橋…おい高橋!流留はどこだよ!!」 「先輩…!!流留さんは今…おそらく実家にいるかと…。親御さんのもとで、眠っているはずです…。」 高橋の目尻は赤くなっていた。きっと高橋も泣いていたんだろう。 俺は走って流留の実家まで行き、流留の両親に家に入れてもらった。 居間に行くと、流留の姿があった。箱の中で眠っている。 「流留…流留…!!」 俺は声も出さず、うつむいて涙を流した。 流留の顔は傷一つなくて、笑っているように見えたんだ。 この子は、最後までみんなの花だった。誰よりも美しい女性だったと、俺は思う。 花を失った水は、どこへ行けばいいんだろうか。 花は水を欲する。水は、花のおかげで幸せになることができた。 俺も、それでよかったんだ。花さえあれば、俺はどうなってもよかったんだ。 だけど、俺たちの花は永遠に俺の心の中で咲き続ける。 朽ちることなく、いつまでも。 だから、いつまでも、いつまでも