フリージア
フリージア。昔兄に「咲はフリージアみたいだな」と言われたっけ。そんなことをおもいだしてもしょうがないのに。何でだろう。広い部屋にひとり、ただ考える。机に水滴が一粒落ちる。あわてて拭った。父は忙しく、いつも家にいない。母は付き合いが多く、めったに会えない。大好きな兄ももう家を出て東京で働いている。家にいるのはお手伝いさんだけ。庭の桜が窓から入ってくる。春だ。でも私は春が嫌い。植物も動物もみんな喜ぶけど、私には関係ないから。自分は悪いことをしていないのに。なぜいじめられるのだろう。ため息がもれる。昔は春が好きだった。そう、フリージアが咲く季節だから。なんで嫌いになったのかな。考えているとノックの音がした。お手伝いさんだ。お兄様から手紙です、と言われ、受け取る。白い封筒を開けると「咲へ。フリージアが咲く季節になったね。風邪は引いていないかな。実はフリージアを育ててたんだけど、とてもきれいに咲いていたからおしばなにしたよ。咲はあまりフリージアが好きじゃないみたいだね。きっと月の下でしか生きられないから弱々しいと思ったんだろう。でも、冬の寒さも乗り越えて咲く強い花なんだ。まるで咲みたいにね。咲も桜やバラに負けず頑張るんだよ。兄より」と会った。心があったかくなる。わたしをいじめるみんな弱い花を押しのけて咲く花なんだ。だったら、私はその中で強く生きよう。 少し春が好きになった。フリージアがまた好きになれた季節だから。