【短編小説】星はここに
「ちょ、ちょっと……!はやいって、追いつけないから!」 「あ、悪いわね」 息切れしながらも、必死についていく。 天文部所属の私は、天体観測のため、山に来ていた。半ば強引に連れて行かされた、が正しいけれど。 「ここならよく見えるわね」 「うん、そうだね」 空は満天の星が輝いている。星座のことはよく分からないけれど、綺麗な夜空だった。 「夏は空気があまり澄んでいないから星が見えにくいとか、日没が遅いから空の明かりが残りやすいとか、色々と説があるけれど……でも、やっぱりこの景色が一番素敵だと思うわ」 彼女はレンズ越しに空を見て、満足そうな顔をしていた。私はそんな彼女の横顔に見惚れてしまった。 「……ねえ、どうして私を連れてきたの?1人で見たかったんじゃないの?」 「え?別に1人でもよかったのだけれど、1人で行ったら遭難するかもだし、連絡も途絶えるかもしれないでしょ?だからあんたを連れてきたの」 「あー、そういうこと」 「あと、あんたが居れば寂しくないし」 さらりとそう言われてしまって、思わずドキッとした。同性なのに、ドキドキするっておかしいよね。 「そういえば、あの星とあっちの星の距離ってどのくらいなんだろう」 「確かあれは……15光年ぐらいかしら」 「へぇ、詳しいんだね」 「まあね。ほら、さっさと準備して。あんたはいい加減春の大曲線から星座見つけられるようにしなさい」 「うぐぅ……」 痛いとこを突かれた。私、実は春の大曲線すらまだ見つけられていない。他の季節だとすぐに見つかるのに。 「……あっ、オリオン座見つけた。……でも、どれがシリウスかわかんない……」 「……あぁもう、貸しなさい」 私が苦戦していると、彼女が手を差し出してきた。 私はきょとんとして首を傾げると、彼女は大きくため息をついた。 そして、私から望遠鏡を奪うと、素早く操作し始めた。 私の目には一瞬で3つの一等星が映った。 おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のベテルギウス。 それぞれ肉眼で見るよりも何倍も大きく見えた。 「すごい……!」 「どう、これで分かった?」 「うん、わかった!ありがとう!!」 「ふふん、どういたしまして」 彼女は誇らしげに笑った。 その笑顔にまた胸を高鳴らせながら、私は彼女に尋ねた。 「そういえば、好きな星って何?やっぱりシリウス?」 「そうね、一番はやっぱりシリウスだけれど……」 そう言って、彼女は空を見上げた。 「私は……あの小さな星が好きね。タラゼド…………わし座のガンマ星よ。知っているかしら」 「知らないかも……」 「そう。まあ、マイナーな星だものね。でも、私は好きよ。とても優しい感じがするもの、主張が強すぎず、弱すぎない」 「そっか……」 私も彼女に倣って、空を見た。 確かに、そこには小さくても力強く輝く星があった。 「でも、最大で2000億個ある中で一番の星を決めなさいっていうのも難しいわね。……ただでさえ好きな星が多いのに」 「私はシリウスとか、スピカとかしか知らないや」 「もちろんオリオン座のベテルギウスも好きよ、スピカ、アルクトス、白鳥座の近くのアルビレオ……まだまだたくさん、数え切れないほどにあるわ」 「ほんとうに、好き過ぎて選べないや」 「そうでしょう?私もそう。でも、やっぱりシリウスも好き。理由は、単純明快で分かりやすいからよ」 「それは、わかる気がする」 「でしょう?……でも、やっぱり迷っちゃう。全部好きで、選ぶなんて無理よ」 「…………あ」 彼女が何か気づいたように声を上げた。 「こと座のベガね……好き!あれは本当に綺麗ね。デネブにアルタイルもあるじゃない!」 「……あはは、そうだね」 彼女は次々と星の名前を口にしていく。 すると、突如私に指をさして、こう言った。 「好き」 「……うん」 改めて見ると、彼女は本当に美人だと思う。 「あるわ、きっと……星が」 「え、」 「さそり座のアンタレス……!」 「……えっと、私、?」 「?いいえ、オリオン座の反対側にアンタレスはあるから」 私は彼女の言葉に、少しだけ期待してしまった。 「あら、ここにも小さな可愛い星があるわ。タラゼドよりもずっと小さいけれど」 そう言って、再び私の前に指をさした。今度は真っ直ぐ、私の目を見て。 その瞳には、私が映っていた。 「星はここに、ね」