おばあちゃんの話
私にはおばあちゃんが一人いるんです。 おばあちゃんはもう高齢で自由に外を歩き回ることができないんですが、その分私にいろいろなお話を聞かせてくれるんですよ。 例えば、料理の話、昔のおばあちゃんの話、怪談話…… どれも聞いて家飽きないような話ばっかり引き出してくれるんです。 なので私はおばあちゃんの家に行くのが大好きなんです。 そこで、昨日またおばあちゃんの家にいったんです。 ワクワクしながら高級そうな重苦しい気のドアを開けたのを覚えています。 いつものようにリビングへ案内してもらうと、私は「早くお話頂戴!」と言いました。 おばあちゃんは、ふかふかのソファーに体を静めながら、いつものようににっこりしながら話してくれました。 「これはね、私がまだ15のころなんだけどねぇ」 ――私の家の前には100年は続くという老舗の旅館があった。 戦争で半分は焼け落ちてしまったというその建物はそれを感じさせないくらいには異様な圧を放っていた。 その旅館の売りは何といっても温泉と近くの海からとれる新鮮な魚。 私はよく遊びに行って、泊まったり、ご飯を食べたりしていた。 その旅館の料理は絶品だったから、私は晩御飯を楽しみにしていた。 先に温泉に入るために建付けの悪い扉を開けると、早い時間だから一人も人はいなかった。 その方が温泉にゆっくり入れるから良いか、と思いながらちょうどいい温度に温まったお湯に足をつけた。 しばらくすると、一人の女の人が温泉に入ってきた。 私はちょっと寝そうになっていたから少しだけその女の人に感謝した。 しばらくの間私と女の人は無言でいた。 すると女の人は暇になったのか私の近くに寄ってきて、すとん、と座った。 世間話でもするのかな、と思っていた私は次の瞬間、女の人の口から紡ぎ出てきた言葉にびっくりした。 「お嬢さん、ここの旅館の噂、って知っていらして?」 「噂?」 「ええ、知らないですか。ならば、お母さんとかに話してあげるといいでしょう。 ――この旅館ですが、実は一度、火事になってしまったのです。 盗みに入った泥棒がやったのか、はたまたお偉いさんの煙草の不始末かはわかりませんが、それのせいでその旅館にいたものは皆なくなってしまったのです。 そのとき、5つくらいの女の子がいました。 母親と同じ色の着物を着て、何となくでも良い家の出だとわかりました。 女の子は泣きわめきながら‶それ″にしがみついていました。 ……焼け死んだお母さんの亡骸です。 5歳の少女にはそんなことも分からなかったんでしょう。 ただただ迫りくる炎に泣きわめいていました。 その時、一人の男がやってきて女の子に水をかぶせました。 台所にあった水です。 そうしてその男はその少女を小脇に抱え、逃げ出そうとしたのです。 生き残っているものは数少なく、残ったものは皆台所あたりに集まっているようでした。 男は必死に走ってようやく台所につきました。 ようやく生き残った者はホッとすると、裏口から避難しようとしました。 ですが、大人はなんて馬鹿なものでしょう。 いくら燃えていないからと言って台所に避難するには危険すぎます。 予想通り、台所には油やらなんやらが多い。 すぐに周りの人を巻き込んで、全滅させてしまったのです。 以降、幼くして亡くなったその少女は恨みを募らせ、この旅館にとりついたそうです…… はい、これでおしまい」 パン、パンと手を二回打つと、女の人は話を終わらせました。 でも私には疑問が残りました。 「でも、「全滅した」といっていたのでこの話を知っている人は誰もいないはずです。伝えられるわけありません。でも、なぜあなたはその話を知っていたのですか?」 女の人はにっこりとしたまま何も答えませんでした。 そこで思い出したのです。 この女の人が入ってくるとき、何も音がしなかった。 あの建付けの悪いドアを開けるには音の一つや二つするものなのに…… じゃあ、あの女の人は? 私がそう思って横を向いたとき、女の人の姿はなかった。 お湯が揺れた気配もなかった。 私はぞっとしてしばらく動くことができなかった―――――」 おばあちゃんはにっこりしたままでいた。 私は背筋がぞくっとして急激に寒くなってきた。 ……やっぱり、おばあちゃんは話が上手だ。