僕は歌う。
僕はあの日に聞いた音を一生忘れない。 僕は歌を歌うことが好きだった。 歌を歌うことは僕にとって「楽しみ」だった。歌を歌えば悲しいことも忘れられた。 小さい時死んだ母さんが褒めてくれた。「翔笑の歌を聞くと元気になれる」って。 母さんが死ぬ前、僕は歌い続けた。だけど母さんは死んでしまった。「翔笑の歌が好き」という言葉を残して。 悲しかった。深い海に僕の心は沈んだ。 僕は天国で僕の歌を聴く母さんのために歌手になることを目指した。 ある日歌ってみたの動画をネットにあげてみた。 だけど、現実は甘くなかった。コメント欄には「声キモ」「歌下手」「クズ」「消えろ」の数々が並んでいた。 すごく傷ついた。その日から僕は歌うのもやめた。外に出るのも怖くなった。部屋に閉じ籠る日々が続いた。 ある日僕はベランダに出てみた。その日は夕陽が綺麗だった。すると遠くの方からなにかの音が聞こえた。それは暖かくって、僕を包み込むような音だった。僕の傷ついた心を癒してくれた。僕はその音に向かって走った。音の主を見たかった。「ありがとう」って言いたかった。 走った。どれくらい走ったのだろうか。疲れ果て僕は道で寝落ちした。 僕は起きた。そこは草原だった。すごく綺麗で地平線が輝いていた。そしてその真ん中でトランペットを吹いている女の人がいた。そこに僕は走った。 その人は笑顔で「こんにちは」と言った。すごく接しやすそうだった。だけど声はかすれていた。 その人は僕がその場所に行くといつも彼女はトランペットを吹いていた。僕が口ずさむと彼女は「もっと歌っていいんだよ」と言った。僕が歌うと彼女は「あなたの歌が好き」と言った。まるで母さんのようだった。 彼女はアドバイスをしてくれた。歌の歌い方も教えてくれた。だけど彼女は絶対歌わなかった。 僕は彼女に「君も歌っていいんだよ?ずっとトランペットばかりで楽しいの?」と言った。 彼女は少し悲しい目をして、どこか遠くを見て「私は歌わないの。」と言った。 次の日草原に行ったらそこにはトランペットと一枚の置き手紙があった。そこの草原の草は枯れかけていた。 何より、彼女はそこにいなかった。 置き手紙にはこう書かれていた。 「私は歌えません。歌えなくなってしまいました。私は幼い時歌が大好きでした。だけど病気の治療によって歌が歌えなくなってしまいました。あなたはいつもきっと歌ったら綺麗な歌声だろうに、と言っていたので、期待を裏切りたくなかったからです。だから、私はトランペットを吹きました。すると、地面が喜んでいるように見えました。それからずっと吹き続けたらこの砂地に草が生え、草原となりました。私がここにいないということは、きっと病気で死んだということです。だけど、私は天国でも歌とトランペットを吹き続けます。あなたは、この地で歌ってください。どうかこの地の自然を守ってください。私はあなたの歌が大好きです。 紗和より」 どこかから歌声が聞こえた。きっと彼女の歌声だろう。すごく綺麗な声だった。 僕は歌う。今でも毎日そこに行って歌い続ける。 もう下手でもいい。僕を救った彼女の思いを引き継げたらいい。そんな想いで今日も歌う。 母さんも天国で聴いているだろうか。 いくら時間が経っただろう、この地に涙目で少年が走ってきた。