私なりの
“人間はみんな、真っ白なパレットなんだよ。いろんな人と触れ合って、色がついていくの。白だから、なににでもなれるの。” 美術の先生が、よく言う言葉。 聞くたびに、自分は違う、と思っていた。 先生の言葉を借りるなら、私のパレットは真っ黒だ。 物事を素直に考えられない。 褒められても、皮肉にしか感じない。なにを言われても、悪い意味にとらえてしまう。 そのせいで、みんなからは少し距離を取られていた。 そうだ、それでいいんだ。 みんなは真っ白のところに、明るい色が付いているところなんだから。 私の黒は、どんな色も汚くする。 鮮やかな赤も、暖かい橙色も、ビビットな黄色も、柔らかい緑も、透き通った青色も、全部。 そんななか、私にずっと話しかけてくる人がいた。 最初は名前を知らなかったけど、ずっと話しかけられてやっと覚えた。 鈴木優馬くん。 同じクラスで、卓球部に入っていると話していた。 血液型はA型、身長はやや低くて160cm。 体重は内緒、と人差し指を口に当てて笑っていたことも思い出す。その時はなんとも思わなかったけど、思い出すと顔がぽっと熱くなる。 兄弟はいるの? 私がそう聞いた時、優馬くんは少し眉を下げながら目を細め、口角を上げながら首を横に振った。 小さい頃、お兄さんが亡くなったらしい。 謝ると、優馬くんは優しい目をして、やっぱり少し眉を下げたまま、こちらこそ暗い話してごめんね、と言った。 困り笑いとは少し違う、あの表情。 その表情を頻繁に思い出す自分に気づいた時、私は優馬くんに恋をしていることに気づいた。 同時に、優馬くんにあまり接しない方がいいことも。 優馬くんのパレットは、真っ白の絵の具で埋まっていた。 私の黒いパレットと近づけてはいけない。 そう考えて、私は優馬くんに話しかけないようにした。 優馬くんは寂しそうに眉を下げたけれど、話しかけてはこなかった。 これでいい。 そう、考える。 これは私の望んだことなんだから。 強く、考える。 誰かと関わりそうになったら、必死に振り切って。 優馬くんとは、1ヶ月以上話さなかった。 そうして月日が流れた頃。 あの、困り笑いとは違う不思議な表情を思い出すたびに揺らぐ心は、ついに崩れた。 また会って、話したい。 はじめてあの表情を見た時を思い出す。 お兄さんが亡くなって、親も構ってくれなくて、空っぽな人生を送る人間に育ってしまった、と優馬くんは自分を笑っていた。 私でも、できるかな。 空っぽな人生に、私なりの色をつける。 不安になりながら、優馬くんへの手紙を握りしめて、玄関の扉を閉めた。