夢の中のように【恋愛小説】
冬の朝、意識が薄れたまま目が覚めると涙が溢れていた。 なぜだろう。誰かの夢をを見ていた気がする。誰だ。思い出せない。 「百合」 夢の中で名前を呼ばれた気がする。 優しい声だった。 不思議な感覚に胸が騒ぐ。もう一度会いたい。もう一度眠ったら会えるだろうか。この胸騒ぎは一体なんなんだ。 百合は瞼を下ろしてみる。意識がなくなるまで瞼を閉じ続けた。 「百合」 そう呼ぶのは175cmほどある男性だった。長い睫毛とほくろが印象的な人だ。 「浩二くん」 知らないはずのに勝手にその名前を口にしていた。どんな関係性なのかも分からない。 「行こうか」 百合の手を優しく取り、どこかに歩きだした。 本当なら手を振りほどくはずなのに、百合は大人しく手を繋がれている。 なぜか胸が苦しかった。 何もないただ草原だけの景色が一面に広がる。 「二度寝しちゃったんだね」 「ごめんなさい。私、あなたが誰なのか分からない」 「そっか。これで何回目だろうなぁ」 「ごめんなさい」 「責めてるつもりじゃないよ。ごめんね」 彼は悲しそうに笑った。心が痛む。 隣にいると安心する。百合は会ったばかりなのに自然と惹かれていった。 「ねぇ」 目覚ましの音で目が覚めてしまった。 涙が止まらない。誰なのだろうか。夢から覚めると顔も覚えていない。すりガラスに映るようにぼんやりとしか浮かんでこない。もう眠れない。百合は体を起こし、顔を洗いに行った。鏡に映る顔は酷くやつれていた。 「浩二…浩二って誰だっけ」 夢を覚えられない自分に嫌気が差した。 きっとあの男性に恋をしている。 名前も顔も曖昧なあの人に。 「浩二くん」 勝手に彼の名前が出てくる。彼は手を握る。離れてしまわぬように。 「名前やっと覚えてくれた」 「ねぇ本当に存在するの?」 すると首を縦に振った。 「私、絶対に会いに行くから」 「焦らなくてもそのうち会えるよ。きっと」 「本当に?」 「もちろん。百合の姿がたとえ変わってても絶対に見つけるから」 その言葉に胸がとくんと跳ねる。百合は完全に恋に落ちた。 「アラーム鳴ってるよ。もう行きな」 手が離れると夢から覚めてしまうらしい。百合は彼の手を離したくなかった。もしこれで会えるのが最後だったらと考えてしまい、怖かった。 「嫌、もしこれで会うのが最後だったら生きていけない」 「大袈裟だなぁ」 彼はため息をついた。百合はハッとしてごめんなさいと俯いた。 「俺が会いに行くから」 百合は浩二に手を伸ばした。彼の心臓がリズムを刻んでいる。どこか懐かしい。 「遅刻するよ」 「もう少しだけ。安心する」 「そっか」 切ない顔を浮かべた浩二はしばらくすると百合の肩を持って離した。 「また今夜」 ふわりと頭を撫で、額にキスを落として消えてしまった。 「浩二…」 また涙を流していた。目が腫れて二重が重たかった。時計の針は昼過ぎを指している。重たい気持ちを軽くしたくて散歩をしようと思い立った。 シンプルかつ暖かさを重視した服装で外に出た。髪の毛は寝癖がついていなかったのでそのままだ。 外に出るとひんやりとした空気が鼻を通る。しばらく歩いてみたものの気持ちは晴れない。 知らない道を気が済むまで進み続けるとひっそりとした公園を見つけた。 そのベンチで一休みすることにした。 「浩二くん」 暖かな日差しに照らされ、百合はそのまま眠りについてしまった。 「百合」 聞き覚えのある声がする。しかし、視界は真っ暗だ。優しい声だけが聞こえる。 「百合、百合」 うっすらと目を開けるとキラキラと光が入る。涙で視界がぼやけていた。 目の前には心配そうな顔をしたおそらく同年代の男性が私を覗き込んでいる。 「こんなところで寝たらだめ」 「浩二くん?」 「そうだよ。やっと会えた」 浩二は冷えた百合を包み込むように抱き締めた。 「風邪引いちゃうよ」 「会いたかった」 浩二の穏やかな香りにほだされる。現実で見た彼は夢でみるよりずっと素敵だった。優しい声に、長い睫毛が咲く綺麗な二重で茶色の瞳に形のいい唇。その周りに散る星のようなほくろがより一層彼を素敵に見せていた。 「浩二くん?どうしたの?」 浩二は百合の肩に顔を埋めていた。放たれる吐息と長い睫毛が擽ったくて仕方がない。 「良かった」 自分の肩が濡れていく感覚がする。 「浩二くん」 名前を呼ぶと自分の姿を見下ろす彼。なんだか百合は嬉しくなって「好きだよ」と言ってみた。 「なに。照れる」 少しぎこちない笑顔を浮かべた。 その笑顔が愛おしくて頬にキスをした。 百合の手は変わらず夢の中のように繋がれたままだった。 趣味程度で書いているのでおかしいところあったらすみません!