拝啓、もう会えない君へ。
これは、私・心(こころ)が小学4年生の頃の話。 もう学年が変わる頃に転校してきた帰国子女の悠斗(ゆうと)くん。 隣の席になって、少し親しくなった。 最初は緊張してたけど、いっぱいお話をするにつれて、 君の優しさを知って、君の本心を知って。 君に会えるってだけで、胸がときめく。 初めての感覚だった。 休み時間では、毎日校庭のブランコで遊んでいた。 古臭くて錆び付いているブランコだったから、誰も遊ぼうとしない。 そんなブランコが私たちにピッタリだった。 キイキイ音を立てながらブランコを漕いだ。 たまに目を閉じてみたり、足を使わずに漕いでみたり…と、 二人なりに楽しんでいた。 「もうすぐ桜が満開だね」 「きれい…」 「まだまだ。桜は満開になるところが本番なんだよ」 「へぇ…」 悠斗くんは返事をしながら、目をキラキラ輝かせて桜を見ていた。 5年生になっても、悠斗くんとは仲良く遊ぶ… …はずだった。 「…こころ。ぼく、5月にはアメリカに帰らなきゃいけないんだ」 ブランコのそばで、悠斗くんはそう言った。 二人の間に沈黙が走る。 「…そ、っか。帰っちゃうんだ」 「うん。ごめんね、こころ」 「謝らなくていいんだよ。全然、だいじょうぶ、だから…」 私は、必死に涙を堪えて言った。 でも、堪えきれなかった。 まるで壊れた水道のように、涙が一気に溢れ出した。 「…まだ、遊びたいよぉ…」 (だって、だって…) 悠斗くんのこと、好きなんだもん。 言いたくても言えないこの気持ち。 今言ったって、意味ないだろう。 「…こころ」 悠斗くんは、こっちを向いた。 その目は真っ直ぐ、私を見つめていた。 「好きだよ、こころ」 発された言葉はそれだった。 「…え?」 「ずっと、大好き。今までも、これからも」 私は、涙が止まらなかった。 「うん…私も…大好き…!」 満開の桜に見守られて、私たちは繋がった。 でももう君は、ここには居ない。 連絡先も知らないから、話すこともない。 久しぶりに小学校の前を通った。 懐かしのブランコは、修理されて綺麗になっていた。 風で桜の花びらが舞う。 桜の甘い香りが、私の鼻をかすめた。 その香りは、あの時と変わりなかった。 拝啓、もう会えない君へ。 ずっと、ずーっと、大好きだよ。