セキレイのように
「美香」 ビクッ…とした。突然、私の名前を呼ばれたからだ。 金縛りとはまさにこのことだった。その瞬間、美香は全身が動かなくなった。 激しく動いていたのは、心臓だけだった。どくどくどくどく…。突然、不審者にナイフを突きつけられた時、こんな感じで心臓が動くんだろうな。そう思った。 金縛りから解放され、美香は周りを見渡した。…何もいない。 描きかけのイラスト、ふわふわしたナスのぬいぐるみペンケース、カラカラと音を立てて転がる色鉛筆…。 まさか、ナスがしゃべった? そんなことを考えてしまうくらい、頭の中が狂っていた。 「美香、あっちへ戻りなさい。美香」 いいや、そんな知らない人の声だけで今までの覚悟を無駄にするような自分ではない。 サクッ…… ノートの紙をハサミで切ったような音がして、私は何かから放たれたような気分になった。 そう、かご入りのセキレイが、飛び出して青空を飛んでいくような気分。私はセキレイの気持ちがわかるような気がした。 こんなところに縛られていても、何もない。 訳もなく殴ってくる父親、私の愚痴をみんなに広めた母親、見て見ぬ振りをする友達…… そんなものに囚われたって、私は成長しない。そう、美香の覚悟は自らの成長のためだ。 神の声……美香は命を絶つその瞬間に、その尊き声を聞いたのだ。 一人の少女の生命は、鳥のように、あの世へ飛び立った。争いのない、平和な世界へ……