アンちゃんの魔法
赤いランドセルに、 まるいおかっぱの女の子。 僕、勇気(ゆうき)と おんなじ小学2年生の この子の名前は、アンちゃん。 アンちゃんはとっても賢くて、 秘密の話だけど、 魔法が使えるんだ。 魔法の杖を振って魔法の言葉を 唱えると、 魔法をかけることができる。 アンちゃんは、 みんなには内緒で そう教えてくれた。 「ここの問題、勇気くんはわかるかなー?」 授業中、僕は先生にそう聞かれて、 わかるはずの答えも言えずに 緊張して黙り込んでいた。 「ぎゃはは!勇気、だっせえの!」 「よう、弱虫ー!」 僕はそう言われても、 「うん…」と小さい声で言って 下を向くだけで、何もできなかった。 隣のアンちゃんは、僕の方を 黙って見ている。 そんな地獄のような 授業が終わることをただただ 神様に願って、休み時間。 「勇気くんは悔しくないの? あいつらにあんなこと言われて。 本当は、答えもわかってるんでしょ?」 「僕だって、悔しいけど、…悔しいけど…。 あいつらに逆らうのなんて無理だよ。」 もじもじとしながら 僕がそう言うと、 アンちゃんはため息をついて、 僕の肩に手を置いて言った。 「じゃあ、私が魔法をかけてあげる。 勇気くんが、勇気を出せる魔法。」 そうして、アンちゃんは僕に 魔法の言葉をかけてくれた。 休み時間の終わりのチャイムがなって、 帰りの会を終わらせて、 学校から帰る時。 校舎裏から声が聞こえて、 僕はこっそり校舎裏を見た。 「やめてよ、取らないでよ!」 「はは、なんだこれ! 魔法の杖?バカらしい!」 「返してっ!」 「お前が俺たちに 「鳥に石を投げるのをやめろ」 とか生意気なこと言ったから悪いんだろ!」 魔法の杖を取り返そうとする アンちゃんを、五年生や六年生の 年上たちが抑えている。 焦る暇もなく、 僕はどうしようか考えた。 先生に言う?それじゃ間に合わない。 魔法の杖をこっそり取り返す? そんなことを僕にはできない。 じゃあ、逃げるの? 僕は、僕は…。 僕は走った。 「やめろ!アンちゃんを離せ!」 「勇気くん!」 「なんだ?このガキンチョ。」 目の前にいるのは、 大きな年上たちだ。 僕の足はガクガク震えて、 今にも目から涙が出てきそうだ。 だけど、僕は頑張れる。 アンちゃんに魔法をかけて もらったんだから。 「やめろ!やめろってば!」 六年を睨んでそう言い続ける 僕があんまりに諦めないものだから、 アンちゃんをいじめていた奴らは、 「クソッ。行こうぜ。」と言ってみんな どこかへ走って行った。 「勇気くん、ありがとう。それと、 謝りたいことがあるの。 私、本当は魔法なんて使えないんだ。」 アンちゃんは僕から目を逸らして もじもじとそう言った。 僕はアンちゃんの肩に手を置いて言う。 「ううん、僕が頑張れたのはアンちゃんの魔法の 言葉のおかげだよ。あの時、「大丈夫だよ」って 言ってくれたから、僕は勇気を出せたんだよ。」 「勇気くん……」 アンちゃんは涙が溢れ出しそうな 瞳で、僕を見つめた。 「それと、僕はアンちゃんがくれたこの勇気で、 もう一つ言わなきゃいけないことがあるんだ。 …僕は、アンちゃんのことが、好きだよ。」