あなたはだあれ?
わたしはだあれ? 記憶がない。全くない。自分の名前、素性、家族、友人、恋人、全てわからない。 ここは病院、ある部屋の一室のベッドの上。沢山のチューブが体に巻き付いている。しかし、体の痛みは全く無い。 女の人と男の人が叫んでいる。駄目だ、何を言っているのか聞こえない。 あ、看護師さんかな。チューブを外してくれるみたい。 「柚花!柚花!よかった、無事で!」 誰だろう、この女の人。どこかで会ったような気もするけどなあ。 やっぱり思い出せないや。 柚花が目を覚ましたらしい。俺の彼女、柚花は交通事故に遭った。確か居眠り運転のトラックに突っ込まれて。 内臓が傷ついて脳を強く打って心肺停止の状態だったがなんとか一命を取り留めた彼女。柚花が目覚めるのをずっと待っていた。 「柚花!」 あれ、なんで柚花のお母さんが泣いているんだ?それに弟さんまで。 なんだ、この感じ。とても嫌な、。 やめろ、その口を開くな。開いてしまったら、。 「あなたはだあれ?」 ああ、本当に最低だ。 姉ちゃんは殺し屋。ターゲットは姉ちゃんの恋人の村西健太。姉ちゃんはアイツを殺す為に恋人になった。けど、姉ちゃんはアイツの事が好きになってしまったんだ。 それで姉ちゃんは、自分で交通事故を起こしたのか、たまたま交通事故にあったのか、あるいは偽装しているだけなのか。まあ、どちらにせよ姉ちゃんは記憶を消したかったんだろう。 姉ちゃんは殺し屋業界では結構名の知れた殺し屋だ。あの姉ちゃんがトラックにはねられるなんて、考えられない。姉ちゃんなら避けることぐらいできる。 そんな事より、姉ちゃんをあんな状態に間接的にさせたアイツを、僕は許さない。 だから、姉ちゃんのベッドに仕掛けて置いた。 目の前には知らない男の人が一人。どうやら彼が私の恋人らしい。名前は村西健太。優しそうな男だ。 私の名前は倉本柚花らしい。家族はお母さんとお父さんと弟。お母さんはパートでお父さんは仕事。弟はバイトに行ったらしい。 「えっと、柚花は羊羹が好きだったよね!持ってきたからこれ、あげるね!」 羊羹って、私こんなのが好きだったんだ。いただきます。 「美味しい!」 ん?この味、どこかで、あ!思い出した!これ、よく仕事帰りに食べてたなあ! 「どう?何か思い出した?」 「うーん、もうちょっとで仕事まで思い出せそう。」 仕事、えーっと赤い?人?包丁?銃?ん、これって。 まさかっ! ああ、そうだ。全部思い出した。私は殺し屋。彼を殺すために恋人になった唯の最低な人間。 けど彼のことが好きになっちゃって、けど彼を殺さないといけなくて。私はトラックに轢かれたんだ。 「どうかしたの?柚花。あ、体調悪い?看護師さん呼ぼうか?」 「ごめん、今日はちょっと帰って。」 「あ、ああ。うん。じゃあね。」 去っていく寂しそうな彼の背中。ごめんね。こんな私を許して。 俺は探偵。唯の探偵じゃない。裏の世界の探偵だ。違う言い方で言えば情報屋だろうか。麻薬ルートなどの管理などもしている。 俺の彼女、柚花は殺し屋。本人は気付かれて無いと思っているらしいが、もうバレている。 それを知っても彼女と縁を切らないのは惚れた弱みと言うものか。こんな俺は少しおかしい。 俺の仕事を知ったら彼女はどう思うだろう。そこが長年の悩ましいところだ。 「瑛太でしょ。銃を私の枕の下に置いたの。」 「流石姉ちゃん。バレてたか」 「何でこんな事したの?」 「憎いんだよ、アイツが。僕から姉ちゃんを奪ってしまう。ねえ、アイツなんか忘れて僕と一緒に暮らそう?」 お母さんはパート、お父さんは仕事。だから必然的に姉ちゃんと一緒にいる時間が多かった。殺し屋になる時も、ずっと2人だって言ったのに。僕から姉ちゃんを離しやがって。 「知ってた?村西健太って裏探偵だよ。だから僕らの敵さ。」 「、そっかあ。」 「うんうん!だから僕と!」 「ずーっと忘てたらいいのに。」 「姉ちゃん?何して、。」 「これが惚れた弱みってやつかあ。」 「姉ちゃん、そこから離れて。お願い。早く!」 「ごめんね、約束守れなくて。」 「姉ちゃん!」 「じゃあね。」 そう言って姉ちゃんは落ちていった。 弟さんから話は全部聞いた。俺をどんな風に思ってたとか。その他色々。不思議と嫌な感じはしなかった。それどころか、全部言ってくれてちょっと嬉しい。 9階からの飛び降り。今回もなんとか一命を取り留めたみたいだ。 あ!彼女が目覚めた! 「柚花!無事でよかった。」 彼女は不思議そうな顔をして答えた。 「あなたはだあれ?」 ああ、本当に最低。