干支の時間屋
「キャーッ!」 中学三年生の干支原 芹奈(えとはら せりな)は、突然、大声を出して叫んだ。 いつものように家に帰ってくると、芹奈の部屋に知らない男子がくつろいでいたからだ。 年は芹奈と同じくらいで、整った顔立ちをしているが、大きなしっぽが生えていて、人ではないような感じだった。 「あ。」 その男子は、なにかを大変な事をしてしまったような表情になった。 「た、たぬき!」 私はたぬきが化けて出てきたのかと思った。 「ち、違うんだ!」 その男子は何かをごまかそうとしているらしい。 「お母さん呼んでくるから!」 そう言って逃げようとすると、「待て!」と男子が叫んだ。 「全部話すから!」 男子がそう言ったので、話を少しは聞こうと思った。 最初からお母さんは家にいないし、さっきのはちょっとした脅しだ。 「僕は馬原 創馬(うまはら そうま)。十二支の干支の、「馬」だ。」 「うそっ」 私が疑うと、彼は真剣そうに言った。 「本当だよ」 「この干支原家が、僕たちの家で、ずっと一緒にいたんだよ。でも僕たちは君に見つかっちゃったからってこと。」 「僕たちって?」 この男子一人のはずなのにどうして「僕たち」なんだろう。 「十二支のみんなだよ。」 創馬くんがそう言うと、廊下からどんどんとうるさい足音が聞こえてきた。 「ガチャッ」 ドアの開く音とともに、たくさん知らない人が入ってきた! 中には女の子もいる。 全員、芹奈と同じくらいの年だ。 「わっ!」 創馬くんによると、ボブの、ちっちゃくてかわいい子が桐音すみちゃんで、気が強そうな子が牛奈しぐれちゃん。 無口で髪の毛の先っぽが白いのが虎枝みとらくん。 髪の長いおっとりした女の子が宇佐野ゆきちゃん 強そうな青い髪の子が龍田りゅうくん。 きりっとした目つきの男の子が波辺ひなたくん。 それと、創馬くん。 大人しそうなふわふわな髪の子が羊田ようちゃん。 机の上で寝てる茶色い髪の子が猿渡なおくん。 白い髪の綺麗な子が鳥羽にとりちゃん。 優しそうな賢い子が犬葉いおりくん。 そして、ショートカットのおしゃれな子が獅子島いのりちゃん。 みんな、十二支の動物なんだって。 そして、そのまま一週間が過ぎた頃。 かなり仲良くなったんだ。 「今日は、何で遊びましょうか。」 丁寧に、優しく声をかけてくれたのは、いおりくん。 いおりくんは、干支のみんなが、人に怪しまれないように人の姿になっていることを教えてくれたし、 親切で優しいから、話がはずむ。 「そろそろ、話しておいた方がいいと思ったのですが・・・」 いおりくんが、真剣な表情で話し始めた。 「僕たち干支は、「時間屋」をしていて、その年の干支が、お客さんに 少しだけ時間を分けるんです。」 「芹奈さんは、確か戌年でしたよね。」 「ですから、僕が時間を売ると、芹那さんの影響で、僕の寿命が、少しずつですが、縮むんです。」 「今までは、僕たちは何万年も生きるので心配はなかったのですが、芹奈さんに存在が見つかったため、 何千倍もの速さで、僕の寿命が縮むようになりました。」 「ですから、僕の残りの寿命は、一時間ほどです。」 それを聞いて、芹奈は、頭の中が真っ白になった。 「本当、なの・・・?」 「はい。」 「ですから、最後の時くらいは、知らせておかないといけないと思ったんです。」 「最後の一時間は、ここにいたいと思います。みんなも、僕の寿命は知っていますが、 隠しておいてくれていたんですよ。」 最後の一時間は、干支のみんなと私で、カードゲームをしたりして遊んだ。 旅行なんかよりも、これでよかったのかな、なんて思いながら、涙が出てきた。 いおりくんには見られたくなかったから、別の部屋で一人で泣いた。 しばらくして、みんなのところに戻った。 でも、いおりくんはもういなかった。 嫌な予感と、みんなの重い空気。 分かってしまった。 「いおりくん・・・。」 いおりくんは、もういないんだって。 私は、気分転換に外へ出た。 空はどんよりしている。 辛くて、思わず叫んでしまった。 「いおりくんっ!」 泣きながら、何回も名前を呼ぶ。 急いで、部屋に戻る。 そこには、笑っているみんながいた。 なんでみんな、笑ってるの? なんで笑っていられるの? みんなに対する違和感と怒りが出てきたとき、 ドアが開いて、犬が入ってきた。 「芹那さん!」 イヌが、いおりくんの声で喋る。 え、もしかして、いおりくん? 確か、いおりくんは、犬の干支だったような・・・。 「これは、運がよかったです!寿命が元に戻るなんて!しばらくは犬の姿でしか いられませんが、本当に良かったです!」 いおりくんが笑う。 また、いつもの日常が戻ってきた。 おしまい。