殺心鬼
殺心鬼。文字通り、心を殺すこと。殺人鬼という言葉が原型。つっても、ここの生徒が作った造語だけど。 殺心鬼って誰だろうって憶測やら推測やらが学校中に蔓延する。空気が汚染されている気がしている。 心って、どうやって殺すんだろう。ナイフは突き立てられないし、毒殺もできないし、絞殺もできない。 心って、どうやって殺すんだろう。 いつもはうるさい教室が、今日はやけに静かで、冷たい空気で満ち溢れている。それもそのはず、クラスメイトの1人が、殺心鬼にやられた。心を殺された。その少女は、光の灯らない電球みたいな眼をしていた。彼女はもともとが暗い感じ、まあ隠キャってやつ。それでも、彼女の瞳には光が灯っていた。人って、心を殺されるとああなるんだな。 私は、彼女に話しかけてみる。いつもは明るく返してくれるはずの挨拶が、感情の籠らない声になっていた。 教室に冷たい空気が立ち込めていても、構わずはしゃぐ女子生徒もいる。あいつらって、空気読めないのかよ。 「あいつ、マジで死んだな」 その言葉で、教室が一気に凍りつく。体感温度、-20℃。凍りつくような空気が広がり、冷たい視線を送られても構わずはしゃぐ。 「あの程度で、心死ぬとか、ばっかみたい」 ケラケラと笑う笑う。 ああ、そうだ。こいつら、あの子をいじめてたんだ。いじめで、あの子は死んだ。 いじめっていう名のナイフに、ロープに、毒に、殺されたんだ。悪口とか、物を壊すとか、物を隠すとか、してたもんな。あいつらが、殺心鬼だ。 瞬間、誰かがはしゃいでいる女子生徒に殴りかかる。そのまま、盛大な喧嘩騒ぎになっていった。その騒ぎで先生が駆けつけ、騒ぎはおさまった。いじめ加害者は、そのまま職員室で説教送りとなり、心を殺された彼女は、精神面のサポートがつくことになり、しばらく学校を休むことになった。 色々あった1日だな。あいつらが、あの子の心を殺した。殺心鬼だ。 ふと、足を止める。そういえばあの子、泣いてた。学校の裏側で泣いてた。手首に、傷もあった。髪の毛をむしってもいた。誰の目にも止まるような。あれって、もしかして。 あの子なりのSOSだったのかもしれない。私たちは、それを無視していた。 あの子を殺したのは、あいつらだけじゃない。 そのSOSを無視した私たちも、殺心鬼だ。 FIN いじめは犯罪。心を殺す。無視もまた、心を殺す。