きみの満月
今日は十五夜。 お団子まで買って帰ったのに、霧が出ているなんて思いもしなかった... あー残念。会えると思ったのに。 散歩でもするか。 ため息をつくと同時に、私は玄関のドアを開けた。 「会えるかな...」 そう。私がいちいち団子まで買って帰ったのは、月見をするためではない。 去年の十五夜、私は散歩をしていた。月を見るために。 足元なんか見ていなかった。 土手から落ちそうになった私の手を、誰かがつかんだ。 「大丈夫?」 神秘的な雰囲気の男の子。 小学生か中学生だろうか。白髪(はくはつ)だ。 そんなことを考えてるうちに、私の体が宙に浮いた。 「!?」 「僕は夜。月の神様なんだぞ。」 ふふんと鼻を鳴らす「夜」を目の前に、私は戸惑っていた。 まず、月の神様というのがあり得ない。でも神様でもないと、大人の女性を宙に浮かすなど無理だろう。 ごちゃごちゃ考える私のことをじっと見ていた夜は、口を開いた。 「空を散歩しない?」 空を...散歩? いわれるがままに夜の手をつかむ。 すると、ふわり。体が宙に浮いた。 ぐんぐん上昇する夜と私。 そして雲ぎりぎりまでくると、いつもの町が一望できた。 土手に戻り、夜は私の手を放す。 お礼がしたい。 その気持ちを夜に伝える。 「ぼく、団子が好きなんだ」 ニッと笑う夜。 すると、夜は消えてしまった。 「待って...」 虚しく響く私の声。 私は泣いた。お別れの挨拶くらいさせてよ...。 その日から、私は月の出る夜は毎日夜と会った場所に行っている。 でも、夜はいない。 だから一年後の今日、お団子をもって土手まで来た。 「久しぶり!」 小さい体。白髪。 夜だ、夜だ! 私は泣きながら夜の小さい胸に飛び込んだ。 一呼吸おいて伝える。 「好きです。」 夜のほほえみが涙腺を刺激する。 ずっと、ずっと、一緒にいたい。そんな思いが、私の胸にこみあげてきた。