君との逃避行、その終わり
「逃げちゃおっか、ふたりで」 電車の振動が眠気を誘ってくる。耳障りな音だけが鼓膜を震わせる。 目を閉じると、嫌な感情が込み上げてくる。 苦しい、悲しい、つらい、寂しい、痛い、怖い、生きていたくない、逃げたい、死にたい、消えたい。 ずっと体の中で渦巻いていたどす黒い感情が、言葉になって現れる。どんどん膨らんで、せり上がってくる。 ─────気持ち悪い。 どす黒いものが胸の中をいっぱいにして、息がうまく吸えない。せり上がってくるから、吐き出してしまいそうになる。まずい。いやだ、こわい、 「───鈴(スズ)?」 私を呼ぶ声に気づいて、やっとの思いで顔を上げると、そこには心配の色を浮かべる蒼真(ソウマ)の顔があった。 「大丈夫?酔った?次の駅で一回降りる?」 彼の顔を見ると、少しだけ息が吸えるようになる。固まっていた心が少しずつ溶けてほぐれていくのを感じる。 「……蒼真、」 感情が溢れ出ないように引き結んでいた唇から、絞り出すように彼の名を呼ぶ。彼は微笑んだ。柔らかく、でもどことなく寂しそうに、安心したように。 「降りよう」 私達は荷物を持って、手を繋いで、ホームに降り立った。枯れた木に囲まれていた。夏になったら緑になるのだろうか。 駅名板の脚が錆びている。そのせいでホームはひどく寂しく見えた。 蒼真が歩き出す。私は地図アプリを開いたまま後を追う。 どこか行くあてがあるのだろうか。でもスマホを取り出した様子はなかった。 蒼真はどんどん進んでいく。途中までこそアスファルトの舗装があったけど、今歩いているところにはもうない。 「ねぇ蒼真、どこ行くの? この先、何かあるの?」 なんでこんな質問。この先に何かあったってなくたって、関係ないのに。 何もない所に行きたくて蒼真の手をとったのに。 こちらを振り返った蒼真の目は暗くて冷たくて、でもなんだか優しく見えた。 蒼真の後ろには崖。 差し出された手を取る。 逃げよう、そう言われた時と同じように。 「怖い?」「こわくないよ」「良かった」 「じゃあ、行こうか」 ────