私が持ってきたもの。
「ねえ、今から散歩しない?」 「どこの馬鹿が夜中の2時から出歩くんだよ」 私の提案を一蹴した彼は、のろのろと布団に潜り込んだ。今の今まで明日の、というかもう日を跨いだので今日になる訳だが、旅行の話で盛り上がっていたのに。 布団の横にはキャリーケースがふたつ。一緒に今日の朝7時から飛行機に乗って、北国の方へ4泊5日の予定である。楽しみすぎて眠れない、そんな遠足前の小学生の気分で彼を散歩に誘ったが、全く乗り気じゃないらしい。 ぜひその調子で飛行機にも乗らないで欲しい。 「ねえ行こうよ。高校の時とは違って、もう補導されないんだからさ」 「寒いじゃん」 普通の理由で断られた。 「旅行が楽しみすぎて夜しか眠れない」 「え、じゃあ寝なよ、2時だろ」 相変わらず辛辣な物言いだ。けれど丁寧につっこんでくれるところがまだ優しい。 「…じゃいい。1人で行ってくる」 今度は拗ねてみた。とはいえ、こうすると絶対に来てくれることも承知済。 さあさ、早く決心固めて靴履いて外に出るんだ。いいじゃないか、夜中に彼女と散歩デート。馬鹿みたいに寒いが、ロマンティックこの上ないだろう。 「え、ちょ、待って、行くから」 ほら来てくれた。靴を履く彼を待って2人揃って玄関をでた。 冬の夜は冷たかった。ゆらりと街灯が道を照らし、車も通らない道を並んで歩く。隣で手を繋ぐ彼に、夜中という状況も相まって「好き」と呟いてみた。独り言みたいに。すると、独り言の「好き」が返ってきた。 幸せだなあ。今みたいに些細なやり取りで満たされるのが。 ちょっとだけ、と言いつつ20分も付き合ってくれた彼に、家に戻ってココアを用意した。チョコレート多め、牛乳少なめの濃厚ココア。マシュマロを浮かべて、粉砂糖をふるって。 最後に、白い睡眠薬も忘れずに。 翌朝、私達が目を覚ましたのは午前11時。昨日寝る前、アラーム切っといてよかった。私の計画は上手くいったのだ。 乗り遅れた、と慌てふためく彼に私はテレビのニュースを見せる。 私達が乗ろうとしていた7時の飛行機は墜落していた。 「え、これ、俺らが乗ろうとしてた…」 「…アラーム切ったのは私」 独り言を呟く。それに彼は反応した。 「え?…どういうこと?」 疑問でいっぱいの彼に、私はある新聞を見せた。 途端、彼の瞳孔大きく開いた。 「…2030年」 「それはね、」