ミライチズ
周りのみんなは、将来の夢が決まっている。それに気づいて、焦る。自分も早く決めなきゃって、焦燥感に駆られる。いつもそうだった。 進級して、新しいクラスになって、自己紹介カードを書く。誰もが経験しているであろう、この流れ。それすらも、私にとっては苦痛でしかなかった。 『将来の夢は?』 でた。この質問。さっきまで順調に書き上げていたのに、それが、この質問で一瞬にして崩れ去る。私は何になりたいんだろう。私の夢は…? 必死に考えるけれど、やはり答えはでなかった。 「大丈夫? 鈴野さん」 「は、はいっ!」 「あっ、急にごめんね。随分思い詰めた顔してたから、つい…」 「ううん、謝らなくていいよ」 彼女は……確か、朝霧さんだ。二年前の四年生だった時に、クラスが同じだったはずだ。 「ありがとう。…それで、どうしたの?」 「……将来の夢を書く項目、あるでしょ? 何書いていいのか、わかんなくて…」 「そうだったんだ…」 「今までも、ずっとそうだったの。周りのみんなは、どんどん自分のなりたいものを見つけていって…。でも、私だけ何も見つからなくて、取り残されていくんじゃないかって、怖かったの」 朝霧さんは、私の言葉を真摯に受け止めてくれた。そうだ……彼女は二年前からこんな風に、真剣になって話を聞いてくれるような人だったのだ。 「……鈴野さんはすごいね」 独り言を呟くかのように、朝霧さんはそう言った。 「えっ? …な、なんで?」 「だって、そんなに真面目に考えられるんだもん!」 「そりゃあ、まあ……大事なことだし…」 将来の夢。もっと言うと、自分が将来なりたいもの。それは、自分の未来に深く関係する重要なこと。軽い気持ちでは到底決められないものだから、真面目に考えるのは当然だと、自分の中で思っていた。 「…将来の夢なんて、まだ決まってなくてもいいんだよ。むしろ、そっちの方が自然だと思うけどな、私は」 朝霧さんは、私のことを元気づけるように、弾んだ声で続けた。 「私達、当たり前だけどみんな小学生でしょ? だから、世の中にどんな仕事があるかなんて、ほんの少ししかわかってないんだよ。私だってそうだもん。これから探していけば、なりたいものはきっと見つかる。だからさ、焦らなくていいんだよ」 「……うん、ありがと…」 その言葉を聞いて、知らず知らずのうちに、涙腺が緩む。気づけば、涙が溢れそうになっていて、それを必死で堪えた。私の気持ちを理解して、励ましてくれたことが、心から嬉しかったから。 「…よかった。少し、気持ちが軽くなった……かな?」 「うん、本当にありがとね、朝霧さん」 「どういたしまして。…でも、将来の夢のとこ、結局なんて書こっか……」 まだ根本的な問題は解決してなかったけれど、何を書くかは、朝霧さんの言葉を聞いた時にもう決まっていた。 「…じゃあ、『夢を見つけること』って書く」 「そっか…! その手があったね!」 そう伝えると朝霧さんは、まるで自分のことのように喜んでくれた。 きっと、今日あった出来事は一生忘れないだろう。それくらい、あの言葉が私の心に深く刻み込まれていた。 (『これから探していけば、なりたいものはきっと見つかる』……か) まだ何も見つかっていないけれど、私だけの未来地図を描いていこう。私なら絶対にできる。と、なんの根拠もないけれど、そう確信していた。