短編小説みんなの答え:5

7月7日

「あっつ...」 空にある太陽が私の肌をジリジリと照りつける。シンプルな白いブラウスの中は蒸し変えるように暑い。額から滲む汗を清潔なハンカチで拭き取り、電車に乗り込む。ひんやりとした冷気が首元を通過して心地よい。 高校生活最後の夏。 夏は嫌いだ。海沿いの街だから砂浜から運んでくる潮風と汗とでベタベタして気持ちが悪い。登下校は電車に乗ってしまえば良いけれど、屋外の保体の授業は、正に地獄と言えた。車内のアナウンスが響く。あ。次で降りなきゃ。 この涼しい空間にいられるのもあと少しだと思うと、憂鬱な気分になる。ゴトンッ、と音をたてて電車の小さなドアが開く。ちょうどその時、 二人の高校生カップルとぶつかってしまった。 「すみません」 私はすぐさま二人に頭を下げる。しかし、男生徒は私に冷えた目を向けてきた。かと思えばすぐに彼女に向き直り、愛想よく笑っている。 これだから、恋愛は嫌いだ。恋人とか愛人とか情人とか。そういう関係が面倒くさい。大体、私達は高校3年生であり受験生でもある。そんなことをしている暇は自分にはない。私にとって恋愛とは...そう、一生使わないような古びた麻紐のようなものだ。 「最悪」 ぼそりと車内に悪態を吐き捨てると渋々、電車から降りた。 やばい。クラクラする。 保体の時間。屋外で50m走。運動は得意な方だ。小さい頃から走り回るのが好きで、よく両親を困らせていたらしい。しかし、今日は調子が悪い。思うように走れず、先生にも友人にも心配されてしまった。 大丈夫。私はまだできる。ちょっと立ちくらみがするからって、大したことはない。こんなの走っていれば、そのうち...。突然、グラァ...と視界が歪んだ。一瞬、周りの音という音が全く聞こえなくなった。 みんな、顔が怖いよ。 眉間にグッとしわを寄せて、先生までそんな顔して。あれ...。もしかして私、みんなに嫌われちゃった? 不意に目を開けると、優しいピンク色のカーテンが飛び込んできた。枕も、いつも私が使っているものではない。つん、と香る消毒液の匂い。そのことから、ここは保険室なのだと悟った。シャッッッ、と勢いよくカーテンを開けられる。すると、見たこともないような男生徒が立っていた。黒髪と茶髪がまじったような珍しい髪色。今にも吸い込まれてしまいそうな眼光。優しい顔立ちをしていて、つい見つめてしまった。 それを見た瞬間、私の胸の中でプツン、と何かが切れたような音がした。窓から吹き込む風が頬を撫ででゆく。 星ひとつ見えない。午前11時。 7月7日。高校生活最後の夏。君に恋をした日。

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