少年の最後の舞台
少年はサックス奏者だった。ただの奏者ではなかった。彼の吹くアルトサックスは、聴くもの全ての心を虜にした。また、その名前は、日本人の誰もが知っていた。 少年はまだ11才だった。ラジオ等でその音色を聴けば、全ての人間が彼を大人、それも熟年のプロだと想像した。 しかし、少年はまだ子供だった。 彼がステージから降りた時、スタッフから彼の両親の死を告げられた。このコンサートに来る途中、交通事故に遭ったとのことだった。 まだ子供の彼にとっては、そのことはどんなコンサートよりも大きすぎた。 彼は泣いた。これ以上の悲しみはなかった。 その後、彼は今まで以上にサックスに打ち込んだ。悲しみから逃げるためもあった。眠らなかったり、何も食べない日は珍しくなかった。やがて彼は、SATBすべてのサックスを吹きこなせるようになった。 そのこともあって、彼が13になる直前に、サックス発祥の地であるベルギーでコンサートをすることになった。 飛行機にコンサートで使うソプラノサックスとアルトサックスを乗せ、少年自身も飛行機の座席に体を委ねた。その柔らかさが原因なのか、どっと眠気が襲った。 最近ろくに寝てなかったもんな…。 そう思いながら、目を閉じた。 気づくと、もう本番前だった。そっとステージに上がる。すると、そこには─。 お父さん、お母さん…。 涙が出そうだった。でも、それを振り払った。 目いっぱいの演奏を聞かせよう…! そのコンサートを企画していた次の日、新聞は大きく見出しを目立たせていた。 『天才少年 天国へ』 少年は機内で永遠の眠りについていた。過労と栄養失調が原因だった。 彼はベルギーのコンサートを迎えることができなかった。 けれど、彼に「最後の舞台」はない。 彼は、夢の中で永遠に音色を響かせているから。 ●◯●◯● muteです。 私は吹奏楽部でバリトンサックスを吹いてます。 ちなみに、作中の「SATB」とは、ソプラノ、アルト、テナー、バリトンの略です。 感想お待ちしております!