短編小説みんなの答え:1

美しい思い出

「ありがとう。」 それが、彼女の最後の言葉だった。 彼女は死んだ。いや、殺されたと言った方が正確か。それも僕に。 別に彼女を殺すほど憎んでいたわけではない。 むしろその逆。僕は彼女を愛していた。世界、いや、宇宙の誰よりも。 僕は、魔界に住み人を食う嫌われ者の悪魔だ。僕がお腹を空かせていた時に、偶然出会ったのが彼女だった。 彼女は、カップラーメンをくれた。1つしかなくて、半分こをしたけれど。 それから彼女とお菓子を食べたり、他愛ない話をして笑ったりした。 あの日までは。 あの日は、彼女に呼ばれた気がして、急いで彼女の家に行った。彼女は、毛布にくるまり泣いていた。 「こんな生活もう嫌…お願い殺して…。」 えっ… 「どうしてそんなこと言うんですか。昨日まであんなに楽しそうにしていたのに…。」 「こんな家嫌…もう耐えられない…。」 もし僕がもっと早く気付いていたのなら…家の様子もちゃんと見ていたのなら…。 「死ぬ以外の選択が出来ていたのかもしれないのに…。」 ぽつりとつぶやく。 彼女は涙も拭わず、そんな僕に笑いかける。 「そんなことないよ。この選択に後悔ないし。」 涙が出る。彼女を見ていたいのに、よく見えない。 彼女が強くハグをする。 「もし生まれ変わったら、また一緒にトランプやろぉ。」 「はい…。」 「あとね、これだけは言いたい。」 さっきよりもっと涙が出る。 「ありがとう。」 彼女がそう言い終えると、僕はそっと命の火を消した。       ✶✶✶ 目が覚め、美しい思い出から引き離された。 ふと手を見ると、何をテーマにしたかも分からない、ねんどでできた指輪がはめられている。 「ありがとう。」 彼女の最後の言葉を思い出す。 「こちらこそですよ。」 そうつぶやき、僕は指輪にキスをした。

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