鈍感な恋
「あーおーばっ」 「わっ。華乃、おはよう」 私は如月碧葉(きさらぎあおば)、小学六年生。今来た子は、私の大親友の宮代華乃(みやしろかの)。 私と華乃は、自分たちのことをほぼすべて打ちあけあっている。私が理科の授業中絵を描いてサボっていること、不登校になりかけたこと、華乃がテストで本当に0点をとったことがあって先生に怒られたこと、家出したことがあること…。 でも、そんな華乃にも話していないことがただひとつだけある。それは、 「碧葉おはよ」 「玲央。おはよう」 この栗田玲央(くりたれお)が好きってこと。なんで言わないか?…だって、そりゃ恥ずかしいじゃん!?それに、玲央ってめーっちゃくちゃ女子に人気で、過去に五回も告白されたことがあるほどなの。この私が告白して、YESになるわけがないし、そもそもこいつに女として見られているのか…。 「碧葉、次図工だよ。一緒行こ!」 「うん。」 玲央とは一応LINEを繋いでいて、二日に一回は連絡をする。だいたい、「明日の時間割何?」「テスト勉強してる?」とか、ほぼ意味のないことなんだけどね。 図工の休み時間、私と華乃が席で話していると、前の席の玲央が友達としゃべっているのが聞こえた。 「なあー、玲央ー。おまえ好きな人いんの?」 「おれ?いないよ!」 あ…玲央、好きな人いないんだ。じゃあもう可能性0%だ…。 「じゃあどんな人がタイプ?」 「えーっ、タイプ?タイプって言ってもなあ…」 やばい。気になりすぎる。 「素直で、ザ・女の子って感じの子かな?」 「いや誰だよww」 うん。本当に、誰!? 今もだったけど、玲央ってこういう恋愛話をしてるときとか、喉のあたりをよく触ってるような気がするんだよね。 あ。今、私の頭の中で、玲央の行動と華乃の声が繋がった。華乃が前、 『嘘をついているときって、喉のあたりを触る人が多いらしいよ』 って。 じゃあ、今の玲央の話、ウソ…ってこと? 玲央には好きな人がいて、素直じゃなくて、ザ・女の子じゃない… ますますわからなくなってきた。 「碧葉、何考えてんの?」 「え?いや、なんでもない。華乃の席行こー!」 「ええー?碧葉、気になるって!」 華乃なら、玲央に聞いてくれるかもしれない…そんな思いを打ち消して、華乃とまたしゃべった。 そんなある日。 私は玲央にLINEで告白してみることにした。振られる覚悟で。いや、違う。振られて、諦めるために告白する。 「れんしゅうもんだい」 「おしえて!」 「がんばるから!」 「すごいムズイんだけど」 「きょうやばいぐらいつかれたかも」 それぞれの頭文字を取ると、「れ」「お」「が」「す」「き」。読み返すと恥ずかしさのあまり今にも叫び出してしまいそうで、送信を後回しにしておくとせっかく考えたのに消してしまいそうだったから、『送信』を押した。頭の片隅で、「エラーが起きたため送れませんでした」っていう表示が出るのを願っていたけど、そんなこともなく無事に送られてしまった。 でも。気づくかな?玲央って結構鈍感だから…。まあ、すぐに気づかれても困るんだけど。 それから一時間ぐらいすると、玲央から返信が来た。スマホのトップ画面に【LINE通知-栗田玲央】とあったのを見たとき、体の奥底から「ぎぇ」という変な声がした。 ドキドキする胸を抑えて、LINEを開く。玲央からの返信は、いつも通りすぎて逆に驚いた。 『おつー』 『まえも同じこと言ってたよww』 『えかいてサボってたなあー』 『がんばるっていってたのにね』 『すまん、今日ムリ』 『きっと教えるわ!』 なーんだ。つまんない。 失望したのか安心したのかわからないまま、私はLINEを閉じた。 数ヶ月後。 私は、ひまだったから玲央とのLINE履歴を眺めていた。 「あ。これ、私が告白したやつ」 後から読み返しても恥ずかしい。 …あれ?玲央の、LINE…頭文字を取ったら、『お』『ま』『え』『が』『す』『き』だ。おまえが、すき…? 気づけば私は玲央の家に走っていた。今度こそ、告白する。口で直接言うんだ。 玲央の家に着くと、ちょうど家の前に玲央が立っていた。買い物帰りなのか、近所のスーパーの袋を下げている。 「玲央っ!」 「碧葉。」 「あのさっ…!私、玲央のこと、好き!ずっと前から!好きだよ!」 口から言葉が溢れ出す。 「おまえさ…おせえんだよ。早く気づけって。…おれも、碧葉のこと、好きだよ。付き合ってください。」 「うんっ!」 玲央が私を抱きしめる。玲央の甘くて優しい匂いが、私を包み込んだ。