殺して生きる
「ちょっ、テストの40点なの!?バカすぎない?」 私の机に置いたテストを見て、大笑いしながら言う。 隣の席にいる梨奈だ。 「ね、ほら見てよ!優衣の点数バカみたいに低くない?」 そういって梨奈は隣の席に私のテストを回した。 いつもの流れだ。 私のテストの点数はこうやって、クラス全員にバラされる。 別にいじめじゃない。 ただのみんなの悪ノリだ。 悪ノリでバカって言っているだけだし、悪ノリで私のテストを回しているだけだし、悪ノリで私のことを大笑いするだけだし── 「優衣って勉強も運動もできないし、ほんとなんもできないよね!逆に天才だわ」 そう言いながら、梨奈とは反対の隣の席にいる美香が私のテストを返してくれた。 笑いながら、私バカだからー、と返すと、またみんな笑った。 もう一度言うけれど、別にこれはいじめじゃない。 ただの悪ノリだ。 だから私も、悪ノリで返さないといけない。 そうしないと、空気が悪くなって、またハブられるから。 もう小学生の時の私とは違うんだ。 だからみんなにバカって言われればバカのフリをするし、わざと勉強も運動も出来ないフリをする。 みんな“バカな優衣”を求めているから、私は“普通の優衣”なんて押し殺して“バカな優衣”をしなくちゃいけないんだ。 「ね、優衣!さすがに絵は描けるでしょ?なんか描いてみてよ!」 美香がシャーペンとメモ帳を渡してきた。 「わかった!私絵だけは上手いからぁ!」 別に絵は上手くない。 可もなく不可もなく、という1番つまらないラインだ。 だから、下手なフリをしないとみんな反応に困ってしまう。 そう考えて、ふにゃふにゃのぐにゃぐにゃな線を何本か引いた。 「できたよ!ほら!」 私が自信満々、という風に絵を見せると、 「いや、なんなんこれ?」 と梨奈につっこまれた。 「優衣って絵も描けないんだ、マジでバカじゃん」 私の絵を見ながら前の席の人が言う。 誰だっけ、と思ったけど、言わないで置いた。 きっとそんなこと言ったら、場を白けさせてしまう。 バカだから、を理由にして聞く手もあったけれど、今はみんな私の絵を笑ってるからとりあえず私もなにも言わずに笑っておいた。 昔は中途半端だからいけなかったんだ。 勉強も平均、運動は多少できるけどやっぱり平均を微妙に超えるだけ。 絵は下手だけど笑いものにできるくらい下手じゃない。 それにプライドが微妙にあった。 全部微妙でいじりにくくて、そのくせ変にプライドがあったから昔の私は浮いたんだ。 だから私は、小学生の時いじめられたんだ。 もう今は大丈夫だ。 絶対に浮かない。 今だってみんな私のことを笑いものにしているけど、これはいじめじゃない。 ものを隠されたり、暴力を振るわれたり、無視されたり……そんなことなんて1度もなかった。 バカでいれば、絶対に浮かないんだ。 バカだよね!なんて言われれば、今更気づいたの?なんて笑えば直ぐにみんな笑う。 バカじゃない!なんて反論したらすぐにハブられる。 自分を押し殺してみんなの中で笑うか、自分を出してみんなにいじめられるか。 そんなの、みんなで笑う方が楽しいに決まってる。 だから私はいつも、“普通の優衣”を殺して生きる。