短編小説みんなの答え:3

枯れた花が彩る記憶

もうすっかり慣れた花の世話をしながら、ふと思いを巡らす。 私が確か、五歳くらいだった頃。 今はもう病気で他界してしまった母親がまだ元気で、ほとんど記憶なんて残っていないけれど、毎日楽しめていた気がする。そんな中でも、一つだけ、絶対に忘れられない大切な思い出がある。 母は、園芸が趣味だった。 彼女はよくうちの庭で花壇に水をやっていて、色とりどりに咲き誇るそれらが、私も大好きだった。 ある日、よくある若気の至りというやつで、その花を一輪、勝手に抜いてしまった。 それが見つかると、父には勿論こっぴどく怒られたけれど、母は困ったように笑って、その花をそのまま私にくれた。怒らないのかと聞けば、「怒るのはお父さんだけで十分でしょ」と一言。 たちまち私は笑顔になった。 家の棚から花瓶を取り出し、窓際に生け、毎日花を眺めた。けれどもやはり、お別れは来るもので。 日に日に弱っていく花に、私は悲しくなった。 その頃、花と連動するようにして、母もよく体調を崩すようになっていた。 ついに、花が枯れてしまった。柔らかく青を写していたのに、その色は何処かへ行ってしまった。 母に言われて、泣きながらゴミ箱へ捨てた。 もう自分の家にあの青い花がないのだと思うと、涙が止まらなかった。 そんな私を見兼ねてか、母は次にじょうろをプレゼントしてくれた。 「あの花の分まで、丁寧に育ててあげてね」 その一言が、忘れられない。 その頃にはもう母は寝たきりになっていて、花壇は放置気味だったから、その世話を私に託してくれたのだ。 それから私はずっと園芸を続けている。 あの花の名前はなんだったか。 そう思って図鑑をめくれば、案外すぐにしっくりくる画像が見つかった。 「『ムスカリ』……」 花言葉はなんだったか。 ──それを理解したとき、母のあの優しい声が頭の中で蘇ってきて、頬を涙が伝った。 完 ムスカリの花言葉→「明るい未来」「夢にかける思い」

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