それは、約束という名の祝福でありーーー
『じゃあ、オレがオウジサマになって、 いつかお前をここから連れ出してやる!』 「…っ!」 懐かしい夢で目が覚めた。カーテンの隙間から差し込む光が眩しい。額に滲む汗を拭い、もう朝か。と独りごちた。 痛む頭と体を無視して洗面台へ向かう。冷たい水で顔をバシャバシャと洗いタオルで拭って顔を上げる。鏡の中の私は、思った以上にひどい顔をしていた。 全てが、昨日のことのように憶えている。 あの頃は楽しかった。痛い実験も、人として扱われない生活も、彼がいたから乗り越えられた。今思えば、私は彼にだいぶ救われていたみたいだ。彼も、私と同じで辛かっただろうに。 着替えるために、再びクローゼットのある寝室へ向かう。いつもの服に着替えてふっと一息つくと、壁にかけられている、今日の日付に丸がついたカレンダーが目に入った。 ーーー私は今日、また君のいない誕生日を 迎えたよ 彼が居なくなってから、もう数年も経つ。彼は、失敗作の私と違って、実験が成功してしまった。そして、彼は'希少な成功例'としてどこかのお偉いさんに買われてしまったのだ。 「…迎えにくる、か。」 私にはもう、彼が生きているのかさえわからない。 けど、彼がここを発った日ーーー幼い私の誕生日に、彼が泣きそうな笑顔で私に言った言葉を、今でも憶えている。 あの頃、この施設にはほとんどなかった絵本をどこからか引っ張り出して来て、一緒によく読んでいた。その中でも、よくあるお姫様と王子様の物語を、当時の私は好んでよく読んでいた記憶がある。 だからか、彼がここを発った日も、直前にその絵本を読んでいた。そしてその時、1度、たった1度だけ、こうこぼしてしまったのである。 『…私も、いつか王子様がここから出してくれないかな。』 彼はもともと大きかった目をさらに大きく開けた。そして、叶うかもわからない、だけど、私が確実に笑顔になってしまう、魔法の言葉ーーーあの約束を、したのだ。 今も続く、辛い実験も、酷い生活も、全部嫌なのに。彼との約束を守るためだけに、私は今日も生き続けている。 ねぇ。君は今、どこにいるの。 何をしているの。 ーーー生きて、いるの? 「会いたい、な。」 わかってる。絶対に叶いっこないんだってこと。 だけど、私は彼の無事を、彼との約束が果たされる事を、この場所でただ願うことしかできないのだ。 コンコン。薄い扉をノックする音と同時に、扉ごしにくぐもった低い声がした。 ーーーあぁ。今日も、始まる。 「803。30分後に第4研究室へ。規則どお り、遅れたら実験は1時間延長になる。 以上だ。」 「…はい。」 ーーー私は、君を待っている。 ーーーだから、 「早く迎えに来てね、私の王子様。」 (・・・これは、もはや呪いなのかもしれない) 約束?祝福?そんなもの、 ーーー祝福と呪いは紙一重なのである。 end