短編小説みんなの答え:0

朝にはケーキと君の笑顔と

「夜は寒いなぁ」 私の隣にいるのは彼氏の健。付き合って二年。お互い二十五歳で同棲も考えている。しかしなかなかタイミングがない。だが今日はクリスマスイブ。私にとってこの今日が絶好のチャンスなのだ。 「雪もイルミネーションも綺麗やな」 彼の言葉で私は空を見上げる。まるで天使が舞っているようで煌びやかだった。 「雪積もるかもね」 「だとしたら大変や。電車止まるかもしれんな。そしたら帰れへんやん。そのときは泊めてな」 そう言う彼の気持ちとは真逆に私は電車も時間も停まってしまえと思う。 「帰っちゃうの?」 「ん?聞こえんかった」 「ううん。何でもないよ」 私は唇にギュッと力を込めてから笑った。 「ね、好き?」 「もちろん」 恋は慎重になりすぎると運命も途方に暮れてしまうらしい。本か何かに書いてあった。ほら今だってキスの一つぐらい出来たかもしれない。彼は恥ずかしいのか自分から愛の言葉を口にしない。本当に私のことが好きなのだろうか。 "私を失ったら終わりだよ" と言いたいぐらいだ。 悶々としていると厚着な私を抱き締めてきた。 「本能のままに動いてみたわ」 「なんやねんそれ」 彼はにぃっと笑って私の首筋に顔を埋めた。私も背中に手を回して二人で抱き合う。しばらくして健が口を開く。 「ちょっとぽっちゃっり」 「サンタさんに新しい性格頼んだ方がいいんじゃない?」 「冗談やって」 こんなときでもふざける彼を見て少し呆れる。でもそんなところも好きという感情がそれと喧嘩する。きっと私じゃない女の子だったら即振られてしまうだろう。 私が口を尖らせていると、彼は自分の首からマフラーを取って私の首に巻き付けた。 「まだ拗ねてるん?ほんまにごめんな。ほら、これあげるわ。風邪引くで」 やっぱり優しい人と単純な私は嬉しくなった。そんな乙女のハートを裏切って健はくしゃみを連発する。信じられない。なんてダメな人なのだろうか。まぁそんなところも愛おしい。 頬も鼻も繋がれていない手も冷たすぎて感覚がない。爪先もじんじんする。私が寒そうに手に息を吹きかけていると、彼は私の手を取ってコートのポケットの中に突っ込んだ。私は驚いて見上げると彼は視線を逸らして「これやったら温かいやろ」と手を握る力を強くした。 きっと今までで最高な真冬の恋。その恋は今猛スピードで駆け出して私の心拍数は上がる。 「手温いね」 「どきどきしてるからな」 「ほら。触ってみ?どきどきしてるやろ」 彼は私の手を取り、心臓に当ててみせた。私と同じぐらいどきどきしている。 「好きな子と一緒におるから」 「健くん可愛い」 「ちょっと!いきなりくん付けはあかんよ!」 男子中学生みたいに照れている彼を見ると愛くるしくて、思わず私は抱きつく。そして私より十センチメートル高い唇に背伸びする。すると彼は驚喜した。 「ねぇ、瑠璃子ちゃん。今日泊めてもらえる?」 「予報では雪積もらないらしいし電車も止まらないけど?」 「瑠璃子ちゃんずるいって。クリスマス一緒に過ごしたいやんか」 「ご飯とか準備出来てないよ」 「まだケーキ売ってるんちゃう?」 「多分もう売り切れてる」 「ほな、一緒に作ろうや。俺がお金出すから」 「苺たくさん買ってよね」 私は彼に寄りかかりながら言った。 町はまだ煌めいていて、私たちを照らしている。 今日だけは綺麗なイルミネーションよりも私だけを見ていてほしいと思った。 時が流れるのは雪解けのように早いもので、あれから三年が経った。 「今年はチョコクリームにしよう」 「なぁ、たまには苺やなくて他のフルーツにせん?」 「ケーキに苺はマストなの!」 クリスマスイブにケーキを作ることは毎年恒例になった。子供のようにはしゃぎながら大きなホールケーキにたくさん苺を乗せて、食べきれなかった分はクリスマスの朝に食べる。 その事を考えるだけで私は自然に笑みが溢れる。 浮かれた気分で片手に買い物袋をぶら下げ、オレンジ色の光が灯るアパートの一室に二人は足を向かわせた。

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