父の鼻歌
父の鼻歌が嫌いだった。 曖昧で、毎回歌詞が違ってて、 頭に残るようで残らないような 変な鼻歌。 いつも聞いていたそれが、 大嫌いだった。 もともと、父は中途半端だった。 いい成績を取っておけなんて 言うくせに、 とったところで私のことを 褒めてなんてくれはしない。 だけど父は私が小さい時、 私を両腕で持ち上げて 「俺の子供は可愛いなぁ」 なんて嬉しそうに言うんだ。 そんな中途半端な愛情が 嫌いだった。 父は私が家出する時も 中途半端だった。 止めないくせに、 「気をつけろよ」 なんて言って私を見送るんだ。 父は天国に行く時もそうだった。 私のことを散々好きだと 言っていたくせに、 自分が死ぬ時は離れて暮らす私に 手紙ひとつも出さずに ひっそりと旅立ってしまうんだ。 なのに、そのくせに、 私の頭にはずっと 父の曖昧で 大嫌いで 鬱陶しくて 優しくて 大好きな鼻歌が こびりついているんだ。 「もっとちゃんと聞いとけばよかったなぁ」 そう呟きながら、 私はベビーカーの中で眠る 可愛い可愛い我が子に 鼻歌を聴かせていた。 【終わり】