サクラ
最近は朝に急かされる。少し前まではゆっくり化粧や着替えができたのだが、ここ数週間くらいだろうか、少しずつ時間が速くなっている気がするのだ。もう私もだいぶ年だから、時間が速く感じるのかな。 私はアイドル。朝早くに起きて、お化粧した後にステージに出て、みんなに私の姿を見てもらうのが仕事。メンバーと一緒に仕事をこなす。 正直、疲れる。なんでアイドルになったんだろう。なぜアイドルになったかって? 友達のアイドルには「小さいとき、先輩アイドルを見てこの職業を志した」と言っている。もちろんその面もある。でも、それより大きい理由としては、…アイドルになることが当たり前だと思っていたの。周りがアイドルだと、私もアイドルにならないと…という圧力を感じる。でもアイドルになったからには、ほかのアイドルに負けないように、人一倍努力している。みんなたぶんそうだけど。 でも、私たちを見てくれるヒトたちの多くは、アイドルをしているのがさも当たり前だと思っているのか、ほぼ無関心の顔で私たちを眺める。本当に腹が立つ。そのうえ私たちのことより自分たちのことを優先させる。私たちを見る気がないならすぐに帰ってほしい。私たちも暇じゃない。あなた達のために頑張っているのに。 昼からは誰も来ない。化粧が落ちるからだ。いい化粧品だけど、落ちるものは仕方ない。2時間もすればベストじゃなくなるから誰も来なくなる。だから暇。友達とじゃんけんをしたり、しりとりをしたりして遊ぶ。昼ご飯はしっかり食べる。おなかがすいちゃうもん。たまに緊急の用事が入ることもある。たいていは面倒な仕事だ。スマホが鳴ると怯えてしまうのは職業病。そして夜に寝る。最近は夜に寝る時間も遅くなっているような。夜更かししたこともあったっけ。 アイドルは大変な仕事だ。周りに乗り遅れるとすぐ引退にされる。なぜか「引退しろ」という声が聞こえるという。私は頑張っているけれど、ある意味では「運」でもある。 それから数日後のことだ。 その日は一段と朝が早かった。そのせいで着替えが間に合わず、みんなにベストを見せられなかった。波に取り残されたのか、何か言われたらどうしよう、と一瞬身構えたけれど、そうはならなかった。むしろその方がよかった。なんと、その日はなぜかみんながその状態になっていたのだった。そしてみんな疲れている。 「なんか今日、一段と朝が早かったよね」 「うん。まだ夜だと思ってたのにいきなり太陽が出てきて叩き起こされてね、なんか時空がゆがんだ感じ?」 「最近これが続くもん。あとさ、ヒトの様子がおかしいの、最近」 「え?」 「いつもは黄色の帽子をかぶったヒトを多く見るじゃん。あれがいないの。その代わり、黒とか紺の服をまとったヒトが増えてね」 「これはさ、もしかしたら、もしかしたらだけど、ヒトが時空を歪ませてるんじゃない?」 「えっ?それはどういうことさ?」 「先輩アイドルに聞いたの。先輩はいろんな文献を漁ってくれたんだけど、どうも最近は例にないほど朝が早いらしくて。ちょうどそのころからヒトの活動が活発になりはじめたらしいのよ」 「つまり?」 「ヒトは、活動を活発化させたせいで、私たちを無視している、っていうことじゃない?」 その二日後、午後二時。緊急でアイドル会議が行われた。 「えー、お集まりいただきありがとうございます。ご存じの通り、私たちの化粧時間がどんどん短くなっている問題ですが、何かいい解決方法はないでしょうか」 「いい提案があります」 「おお、さっそくありがとう、どうぞ」 「はい。私はこの問題について、文献などを調べて考えました。そして結論として、ヒトの活動によるものが大きいということになりました」 「なるほど、確かにこれはそのように取れますね。私もヒトの活動活発化を危惧しておりました。ああ、続きをどうぞ」 「よって…」 「何ですか?」 「化粧をせずにステージに立つことを提案します」 その後、この提案は全員一致で選ばれた。 ヒトよ、この決定をさせたのは貴様らだ。後悔するがよい。 『ここで今は言ったニュースです。異例のスピードです。気象庁は東京で今日、桜の花が6つ咲いていたとして、桜の開花を宣言しました。本州では一番早い桜の開花となり、去年より6日、平年より13日も早い開花です。』 (五日後) 『異例の速さで開花した東京の桜は、満開になることなく、たった数日で散ることになりました。』 (了) 思い付きでササっと書いてみましたが、結構大変でした。(笑)感想をぜひお願いします。語彙力がなかったらごめんなさい(国語は苦手なんです…)