短編小説みんなの答え:2

幼馴染の優しさ。

「あなたにとって恋愛とはなんですか」 そう質問された時どう答えるだろう。 私の人生に恋愛は必要ない。恋愛よりも楽しめることが沢山あるし、恋愛をして得られるものの方が少ないだろう。 だが、今、私の目の前にいるこの幼馴染は絶賛恋愛中らしい。 「────ちゃんっ!まつりちゃん!聞いてる!?」 「ええと、飼ってるねずみの話だっけ。」 しまった。怒られた。 これくらいは許しておくれ、かわゆい幼馴染よ。 度重なる恋愛相談とバイトでへとへとなんだ。少なくとも幼馴染が話している最中に意識を飛ばしてしまうくらいには。 「ちがうよ~、今してたのはあの人の話!あと私が飼ってるのはハムスター。ねずみじゃないよ」 私の前でぷりぷりと怒るのは幼馴染の高當あかり(たかとう あかり) 髪をふわふわと靡かせながら、腰に手を当てこちらを見る。背が低いからあまり威圧感がないのだが、私が男だったならイチコロだっただろう。もうイチコロだが。 あかりは可愛い。歩いているだけで人目を引く、所謂美少女だ。幼少期には子供向けファッション誌のモデルにならないかとスカウトが絶えなかったし、今でも声をかけられることが多いらしい。彼女は内気で人見知りだから性格的に合わないと全て断っていたようだが。 そんな彼女は今、片思いをしている。一目惚れだったらしい。 ねずみもハムスターも一緒じゃないのか。そう思いながら手に持ったカツサンドを口に含む。 「ごめんごめん。それで?あの人がどうしたの」 「やっぱり聞いてなかったのね。チョコをね、あの、渡そうかなって」 「なんでチョコ?」 「んぅ、まつりちゃんほんとそういうのに興味ないよね」 どうして呆れた顔をする。 今は冬だ。暦的には春だが気温は十分低い。そして今は2月。 (ああそういうことか) バレンタインだ。世の乙女にとっては一大イベント。 まあ、わたし的には節分の方が重要だったりするんだが。大豆美味しいし。 「バレンタインかぁ。告白するの?」 そう聞けば、あかりは顔を真っ赤にして少し俯いた。図星だな。 先ほどから話題に出ている【あの人】にあかりは告白するつもりなのだろう。バレンタインという絶好のタイミングに。 「あっ」 声を出してしまった。 飲み物を買おうと思って校舎裏にある自販機まで歩いていた。立地の悪さに悪態をつきながらもようやく辿り着いたところであの人と出会ったのだ。あの人も丁度飲み物を買いに来ていたようで、その手には500mlのペットボトルと自分のものであろうタオルが握られている。 「..?」 こちらを不思議そうに見るあの人の名前は...確か、林(はやし)クンだっただろうか。そこまで接点がないにしろ、一度は去年同じ委員として一年間活動した間柄だ。名前をはっきり思い出せないことに対して罪悪感を覚える。 「えっと、ごめん。飲み物、買いに来ただけ」 疑問を抱かせたことに対して謝罪し、自販機の前に立つ。 自分の分の紅茶と、あかりの分の温かいお茶を買う。林クンは少し会釈をしてから、自販機の隣で水を飲み始めた。恐らくだが部活終わりで水を飲みに来た時に私と遭遇したのだろう。ゴミ箱にボトルを捨ててから帰りたいのだろうか、とんでもない勢いで水を飲んでいる。 この男は林..なんだったか、強そうな名前であったことは覚えている。質実剛健という言葉が似合う人物で彼を一言で表すなら『まじめ』という言葉がぴったりだろう。スポーツマンでサッカー部、そしてあかりの想い人だ。ほほん、まさかあかりのタイプがこういうのだったとは。 あかりとの会話を思い出し、唐突にちょっかいをかけたくなってきた。 「あのさ林クン。私のこと覚えてる?」 「え?あぁ、委員の。名前は...ごめん」 「私も林クンの下の名前わからんからいいよ。頼み事あるんだけど、いい?」 「お互い様だな。頼み事って?」 「これさ、あかりのとこに持ってってほしいなって」 「あかり、って高當さんのこと?」 「そ、私これから用事あったの思い出してさ。これ渡して私が帰ったこと伝えてもらってもいいかな?」 彼は「いいよ」と言って荷物とボトルを持ち去っていったが、嘘だ。本当は用事なんてない。 あかりはどんな顔をするだろうか。あの子は親しくない人に対して無愛想なところがあるから、小さな声で「ありがとう」と言ってそのまま帰るのだろう。いや、どうだろう。あの子は林クンのことが好きだから。 (どうなろうが面白い) この調子なら告白も成功するだろうな。 一年間同じ委員だった私の名前を忘れていて、関わりのないあかりの名前を覚えていた時点で何となく察した。 あかりが振られたとしても私がもらえばいい話だし。 そんなことを考えながら寒空の下、一人で歩き始めた。

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