短編小説みんなの答え:1

ほんのちょっとでいいの

「瑠璃はさ、和泉のどこが好きなの?」 友達の何気ない一言。すぐに答えられなかったのは、どうしてだろう。 「村山、帰ろ」 半年前から付き合っている、和泉逞眞。同じクラスになる前は、優しくて面白くて、実は影でモテている人気者、っていうイメージだった。 付き合ってからも、そのイメージは変わらない。 和泉のことは好きだ。でも、どこが好きと聞かれると、いつも言葉に詰まってしまう。好きな理由がないのは、駄目なことなのだろうか。もう1ヶ月以上も悩んでいる。 「村山最近元気ない?」 和泉に顔を覗き込まれてドキッとした。そういうのは、バレるものなのだろうか。 「全然?大丈夫だよ?」 自分なりに笑顔を作って和泉を見上げる。でも和泉は、全然納得した顔をしてくれない。 「ほんとになんもない?何か悩んでる?」 「ううん」 言えないよ。 「なんにも?」 和泉のどこが好きなのか、わかんないなんて。 それからまた半年が経った。和泉と付き合って、もうすぐ1年。 「瑠璃ー帰ろー」 いつの間にか、私を瑠璃と呼ぶようになった和泉。どこが好きなのか、まだわからないでいる。 いつもの田んぼ道を歩く。伸びた和泉の影が、私を見ていることを教えてくれる。 「…顔になんか付いてる?」 「いや……瑠璃さ、前髪切った?」 「え!わかる?昨日の夜切ったの!」 「やっぱり、可愛くなった」 自分でもわかる。今私は、紅潮している。 「ほらー可愛いー」 目を細めて少し口角を上げる。和泉の笑顔を見ていると、悩みなんて全部どうでもいいと思ってしまう。 ……そういうことなのかな。 笑顔を見ると嬉しくて、 名前を呼ばれると嬉しくて。 隣で並んで歩くだけ。ただそれだけで幸せになれる。 そっか、そういうことか。 「ねえ和泉」 「ん?」 「大好き」 ねえ和泉、私、やっとわかったよ。和泉のどこが好きなのか。 控えめな笑顔とか、さりげない優しさとか、変化に気づいてくれたりとか。 ほんのちょっとでいいの。和泉がそこにいるだけで、私は幸せになれる。 理由なんてなんでもいいんだ。小さくてもいいんだ。「好き」って思いがあれば、それだけで充分なんだね。 「おお、どうした突然」 夕焼けのせいじゃない。確かに真っ赤に染まった和泉の照れくさそうな顔は、瞳が焼けそうな程、眩しい。

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