私の、夏の物語。
私は、野村星羅。中学2年生。これは、ある夏の物語だ。 「せーちゃん」 ビクッ、と驚いて肩が震える。人が近づいてくる気配がする。 「んっ?」 後ろを振り向くと、汗だくになった姿の彼氏、神山れいとがいた。ゆっくりと息を吐きながら私は言う。 「あぁ、神山、お疲れ様。…私帰るねっ」 そう言って立ちあがろうとした。私は誰かに、神山と付き合っていることを知られたくないのだった。神山に迷惑をかけたくないから。なのに、私を引き留めようとしてれいとが私の腕を強く引っ張る。 「私、早く帰んなきゃ」 神山の手を、ほとんど力を入れずに揺さぶった。目を見て、少し微笑む。 「なんで隠すの?俺らが付き合ってること」 「えっ」 唐突な質問に、少し戸惑う。 だって。 「神山に迷惑かけるかもしんないじゃん」 重たい沈黙が流れた。私はその場を取り繕うように言う。 「…っ、だってさ、こんな私が神山の彼女だなんて、みんな多分納得いかないと思うし」 「んなわけないでしょ」 「んなわけあるよ」 れいとは性格も良くて、イケメンで、学年でもすごくモテる。 「せーちゃん、自分がモテてること知らない?」 「知らんな」 可笑しくて、私は自然と笑ってしまう。 「知ってるだろ、てか俺には、こんな可愛くて性格いい彼女、勿体無いくらいだわ」 あはは、と声を立てて笑った。 「もういっそ、付き合ってることみんなに言おうや。誰にだって、何度だって、言ってやるよ」 「あは、嬉しいこと言ってくれるじゃん」 「一緒に帰ろうや、今日はさ」 「うん、そだね」 あぁ、またつられてしまった。でも、なんだかすごく嬉しかった。 手を、握った。 お互いの愛と気持ちを確かめるように。 「星羅、大好き」 呟くような声音で、私の名前を、「大好き」を、伝えてくれた。 「れいと、大好きだよ、これからも」 ふっ、と息を吐く。ほおが自然と緩むのがわかる。 「ずっと」 お互いの目を見る。 私は少し背伸びをして、神山は、下を向いた。 そして2人、目を瞑った。