花言葉とキス
彼の誕生日、私は彼の家にサプライズで行くことにした。 小さい頃からずっと一緒……というわけではないけれど、彼と会ってからもう五年以上経つ。 いままでは彼と都合が合わなくて無理だったけれど、今年はやっと誕生日を祝える。 彼の誕生日は二月二十六日だから、その日の誕生花のスノードロップという花を持ってきた。 「希望」という花言葉もあるらしいから、きっと彼も喜ぶ。 そう考えているうちに、彼の家が見えてきた。 サプライズなんて久しぶりだから、すごくドキドキする。 この前サプライズで家に行った時は留守だったみたいだけど、今回は大丈夫かな? まあ、きっと大丈夫だよね。 もし留守だったとしても、先に家に入って待ってればいいし。 そう考えていたけど、彼は家にいた。 友達らしき人も見当たらないし、きっと一人だろう。 よし、計画通り。 合鍵を使って、玄関に入る。 私が厚底のブーツを脱いでいると、驚いた顔をしたような彼がこちらに走ってきた。 あれ、少し顔色悪いかな。 誕生日なのに、風邪でもひいたのかな。 私はそう思って、どうしたの?と声を掛けてみる。 だけど彼は震えながら立ち尽くすだけで、答えてくれなかった。 体調悪いの?と続けて聞く。 そうすると彼は焦点の合っていなかった瞳を元に戻して、私の方を見てきた。 やっぱり、顔色が悪い。 「ね、今日誕生日でしょ?いろいろ持ってきたんだよ、ほら、誕生花のスノードロップ!」 家に上がりながら話すと、彼が突然腕を掴んできた。 「どうしたの?」 振り返りながら聞く。 彼の顔色は少し……いや、だいぶよくなってた。 真っ青だったのが真っ赤に変わっている。 照れているのかなぁ、なんて考えるのは、きっと自惚れではないと思う。 「なんで…家に入れたんだろ……」 独り言みたいに、彼が呟いた。 もしかして、酔っているのだろうか。 「だって、鍵持ってるもん。ねえ、酔ってるの?大丈夫?」 私がそう答えると、真っ赤だった彼の顔が再び真っ青になった。 信号機かよ、なんて心の中で突っ込む。 彼の酔いが冷めたら、信号機って言っていじってやろう。 「なにしにきた……?」 酔っているからなのか、彼の口調がなんだか強い。 普段はふんわりした優しい子なのに、今は元気な男の子って感じの口調で話している。 口調だけじゃなくて、顔もすごく険しくて怖かった。 それが気に入らなくて、私はムキになっていじわるをした。 「なんでって、逆になんでだと思うの?」 知らねぇよ…とでも言うふうに彼は長いため息をついた。 ますます気に入らない。 「ねーえ、今からクイズだすね?答えられなかったら、罰ゲーム!逆に正解したら、なんかご褒美!」 罰ゲームはとびっきり酷いのにしてやろう。 そしたら、こんな態度の彼も私のものだ。 まあ、正解してくれたら、とびっきりのご褒美をあげようかな。 「スノードロップには、こわーい花言葉があります!それはなんでしょう?」 今から制限時間は三十秒ね!と言ったら、彼は慌ててスマホを取り出した。 だけど、私は彼のタイピングが遅いことなんてとっくのとうに知ってる。 彼はきっと三十秒の間に答えられないだろう。 私の予想の通り、彼は答えられなかった。 毎日彼のことを見てる私なら、これくらいすぐに予想できる。 「正解はね!『あなたの死を望みます』だよー!ゆうくん残念、ふせいかーい!」 私がそう言っても、彼はクイズなんてそっちのけで、 「名前……」 なんて呟いている。 全く、最期までこんな態度なのか。 まあ、もう私のモノになるしね! 「罰ゲームはね!花言葉の通りになってもらいまーす!」 私はそう言いながら彼に抱きついて、人生で一番のとびっきりのキスをした。