信心
私は信じております。 ただの髪結いであった私を見初めてくださったおまえさんを。 おまえさんの店が倒れかけたとき、おまえさんが言った言葉を信じて、私は全財産をおまえさんに捧げた。 そして私は大好きだった髪結いの仕事を手放すことになった。それでもおまえさんがいた。だから私はそれでも良かった。 私は信じておりました。 私と仲良くしてくれた、大工の娘のおさえを。 この頃はおさえの様子がおかしいようでありました。私を見ては遠くから憐れむように眺めたあとにやにやと笑いながらこちらに話しかけて来るのです。 おさえは私の得意客でしたから、髪結いをやめたあとも何度か髪を整えることがありました。 髪は全てを語るようで、前よりも艶の出ていた髪からは、おまえさんの匂いがした。 おさえはこのひと月で大人の女のようになった。化粧は派手なものからやや控えめに、しかし紅い口紅はおさえの形の良い唇を強調するように艶めかしかった。対照に、服は少し派手になった。紅い着物には金色で縁取られた花が咲いて、黒い羽織は大人の女であることを江戸中に知らせるようだった。 そんなおさえをみて、私は全てを悟ってしまった。 おさえのことが腹立たしくて、何度も包丁を研いだ。 それでもおまえさんのことをふと思えば、おまえさんが私を捨てるはずがないと思えた。 きっとおさえは息抜き程度、本当に必要なのは私なのでしょう。 だからこんな馬鹿な真似はすぐにやめるでしょう。もしかしたら、大工であるおさえの父の方に用事があり、そこへの接待程度の接触かも知れない。まだまだ子供であったおさえはそれを真に受け、あろうことか愛人のように振る舞っていた。そう考えると合点がいった。 私は信じております。 おまえさんが愛しているのは私であることに。 私が2日ほど早く実家から帰ってきたとき、部屋には見かけぬ着物と肌着も着ずに眠った男女。それでも私は信じております。 一週間ほど前から、おまえさんが家に帰ってきません。おさえも姿をくらましたようです。両者とも、金目のものは全て持って。 こんな寒い時期に旅行にでも行ったのでしょうかと、私は今日もおまえさんを信じる______おまえさんを信じたい。 ああ、私はいつまで信じられるのでしょうか。 お前さんの帰りを、あと何年_____