100dB
とんだ初恋だと思った。 どうあがいても、私はこの子の隣には居れない。なら、せめてこの子の幸せを邪魔しないようにしたい。 そう思った瞬間、涙が出そうになった。ああ、初恋は実らないってほんとなんだなあ。 まあしょうがないよね。私は女の子、あの子も女の子、なんだからなあ。 「りなー、楽譜あるー?」 突然話しかけられて少し体が固まった。それでも平静を装って振り向いた。 「何、美心。また忘れたの?」 「違う!家出る前までは覚えてた!」 「忘れてんじゃん。」 そんな会話を交わしながら、ふと美心の顔を見る。 幸せそうだなあ。のんきだなあ、私の気持ちも知らないで。 「りな?どしたボーっとして。」 「…何でもないよ、早く行こ。」 逃げるように音楽室へ向かう。 吹部には美心が入ったから入った。我ながら動機が不純だと思う。 それでも入っててよかった。だって、美心の一番綺麗な顔、私が一番知ってるから。 何かに真剣な美心が一番綺麗だ。何かに夢中で、楽しくてたまらないって顔した美心が一番好きだ。 でも、その顔を私に向けてくれることはないんだろうな。 「今度のコンクールの課題曲は…『組曲“惑星”より、木星』。私この曲好き!」 「…好きなのは美心じゃないでしょ。」 例の、といったところで言葉に詰まった。自分の気持ちをぐっと抑えて、笑って言った。 「…彼氏くん、でしょ?」 美心は照れながら、私が一番好きな顔を見せた。 …ああ、苦しいな。 自分の言葉で泣きそうになった。それでも私はフルートを取って 「じゃあ合わせようか、美心吹ける?」 なんてことを、顔も見ずに言ってしまった。 「うん、この曲前もやったし大丈夫!」 笑顔なのは見なくてもわかった。 息を整えて、ブレスを合わせた。二人が同じことを考えているこの瞬間、お互いがお互いのことしか考えられなくなるこの瞬間が、私は好きだ。 ふと、美心の方を見た。息が詰まるほどに、綺麗な横顔で、ズレてしまいそうになった。 鼓動がやけにうるさくて、『木星』のリズムを取っているようだった。 ねえいま、この鼓動が聞こえてますか?