短編小説みんなの答え:0

濁りと夏

拝啓、何処まで走ろうとも追いつけない、蒸し暑い日の思い出へ。 二年ぶりに実家に帰省した。 山に囲まれた夏の田舎は、やはり懐かしく感じる。 両親に歓迎され、昼食を済ました後、僕は散歩がてら生まれ育った故郷を見てまわることにした。 この土地で、僕は電車やバスを見た事がない。だからこそ、上京して 当たり前に電車やバスに乗る人々に対して驚きを隠すことが出来なかった。 何も変わらない、僕の故郷。 何も無いけど、工夫して友達と遊んだっけ。 この狭い田舎で、僕の友達は二人しかいなかった。 一人は数年前に僕より先にここを出て、連絡はとっていない。 そしてもう一人は… よく三人で遊んだ山に行く。 ボロボロになった立ち入り禁止の看板と、子供が入れない程度の塀が佇んでいた。 この看板と塀が作られたのは、11年前。 あの子がこの山で居なくなってから、三ヶ月ほど経った時だった。 11年前は大きく感じていた塀も、今の僕にとっては小さい。 僕はそっと塀を乗り越え、山の奥へと進んでいく。 山の奥には緩やかな流れの小さな川があった。 あの子が居なくなったのはいつものように三人で水遊びをしている時だった。 ふとあの子の方を見ると、跡形もなく居なくなっていた。 まるで神隠しに遭ったかのように、なんの物音も立てず。 少し経ったあと、僕はまた塀を乗り越え、実家までゆっくり歩く。 歩いている途中、確かに聞こえた。 「また遊ぼうね」 拝啓、蒸し暑い日の、忘れられない思い出へ。

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