見えない羽
「ちょっと待って!もう一回、考え直してよ!」 屋上の柵の向こう側に立つ、親友の結奈(ゆな)に、わたしは声を荒げる。 「ごめん、悪かった。いじめを見て見ぬ振りした、わたしが悪かった。だからさ、お願い!戻ってきて!」 必死に、呼びかける。少しの間が空いて、結奈が振り返った。その顔は、ひどく寂しそうで、それと同時に、怯えの気持ちが伺えた。 「千夏(ちか)」 結奈が、わたしの名前を呼ぶ。 「な、なに?」 「……わたしの分まで、生きてね」 その言葉を残すと、結奈は一歩踏み出した。 一瞬で、結奈の姿が見えなくなる。 声にならない悲鳴が、喉から飛び出た。 死ぬ物狂いで駆け出して、柵から身を乗り出す。 そこにはもう、結奈の姿はなかった。 「ゆ、な…………結奈ぁ……」 膝から力が抜けて、ガクンとへたり込む。 ごめん。ごめんねぇ、結奈。そこまで苦しんでるなんて、わたし知らなかった。 結奈。楽しかった。初めて遊んだ場所、ショッピングモール。お揃いのキーホルダー、買ったよね。あれ、まだ付けてるよ。 ああ、楽しかったな。ありがとう、結奈。それから、さよなら……。 涙が目から、溢れそうになった、その時だった。 突然、目の前が明るくなった。 目を開けば、目の前には結奈が飛んでいた。 それだけじゃない。背中には羽が生えていて、結奈の周りはうっすら光っていた。 「………え。ゆ、結奈……?どうして、なんで……」 結奈は、わたしに笑いかけた。かと思うと、すぐに涙目になる。 「うっ、うっ……」としゃくりあげたかと思うと、わっと泣き崩れてしまった。 「ち……千夏ぁ」 「結奈、結奈」 わたしは、訳がわからず結奈を抱きしめた。 結奈は、わたしの背中に手を回すと、泣きながら言った。 「や、やっぱり……うぇっ……死にたく……ないよぉー」 「えーん」と泣きながらも、しっかりと。 「もっと……もっと、生きたい……っ。千夏と……思い出、作りたい……!」 「結奈っ」 わたしは再び、強く抱きしめた。 見えない羽。それが、結奈とわたしの絆を、強くしてくれた。 わたしはこれからも、結奈と親友でいる。 そんな気持ちを込めて、わたしは誓った。 「ずっと、一緒だよ……結奈!」