嘘の月
手元を照らす月の 光を頼りに手紙を書く。 こんな田舎に住む 僕のことなんて、 あの人は忘れているかもしれない。 いっそ忘れて欲しいとも思った。 こんなに不器用にしか 話せない僕なんて、 素直になれない僕なんて、 忘れて欲しい。 だけど哀れな僕は今夜 あの人に手紙を書くんだ。 僕の頭の中の辞書での恋人は 朝起きた時に 一番に声を聞いたり、 2人で道を歩いて 談笑できるような人たちだ。 僕の心はその頭の中の分厚く 重い重い辞書に 押しつぶされそうだった。 そんなに上手くいく はずがないと思っていても、 自分の恋に自信がなくなってしまう。 そんな頭に囚われながら、 僕は何度も筆に思いを込めて 何度も紙に滲んだ 思いを丸めて捨てた。 迷いに迷って僕が生み出したのは、 この文章だ。 「僕はあなたに会えなくても、 別に困ったことはありません。 一人でのびのびと暮らすには、 この田舎で十分です。 僕に後悔はありません。 あなたに会うことがなくても、 寂しくないことを学びました。 都会の月はどうですか? 僕の住む田舎は、 とても 月が綺麗です」 嘘つきの僕は、 月に思いを託すことしかできない。 僕のこの思いが 月に運ばれて、 あの人に届きますように。 今はそう願うだけだ。 【end】