たった1つのカーネーション
ある晴れた冬の日のこと、両親が事故にあった。後ろからスリップしたトラックに追突され即死だったそう。 葬儀では、親戚と祖父母は泣いていた。 私は泣かなかった。泣けなかった。親戚からは「頭がおかしいんじゃない」って言われた。 泣けることだったらどれだけよかったのだろう。悲しい、とか苦しい、とかそんな簡単な言葉で表せない。 悲しい、苦しい、で済んだらどれだけよかったのだろうか。 お母さんとお父さんの棺にはそれぞれ1つのカーネーションが置かれていた。 たった1つだった。1つだけだった。 白いカーネーションが置かれている。 2人が好きだ、と言っていたカーネーション。 今日は2人で買いに行ったんだろう。 「これが綺麗だね」と言い合いながら買ってきたんだろう。 家に帰ると、シーン…とした空気が漂うだけだった。 いつも笑顔で「おかえり!」と言っていたお母さんの顔が懐かしい。 あぁ、お母さんの作るハンバーグ、もう1回食べたいな。 お父さんともう1回動物園に行きたいな。 そんなちっぽけな願いはもう叶わない。 声を聴くこともできない。触れることもできない。抱きしめて腕の中で泣くことさえできない。 もっと、ありがとうって言えばよかった。もっと親孝行すればよかった。 スマホで写真を見て思い出に浸っていると、間違えて音楽アプリを開いてしまった。 そして、2人が好きだと言っていた、音楽が流れ始めた。 その音楽が流れ始めた瞬間、私の目からとめどのない涙が出てきた。 両親が死んでから初めて泣いた。 心の底から初めて泣いた。 「っ…お母さんお父さん、会いたいっ…」 その後 私はずっと泣き続けた。 たった1つのカーネーションの前で ーENDー